第39話 PHASE4 その5 ハプニングからスタート

「ねぇ、こっちじゃない?」

「こっちじゃないよ。もう何が何だか」

「北野さんは兎も角、夏子さんまで方向音痴とは思いませんでした」

本当にまさかの展開になっていた。まさか迷子になろうとは誰が予想したのだろうか。


水族館の場所は都内にあった。JR線に関しては特に問題はなかった。

安藤さんも時たま新宿や渋谷に買い物には行っているので慣れてはいる。

問題は地下鉄だった。東京メトロや都営線は、普段使う事がない。

それに加えて、色々な線が入り組んでいるので、

初めての人にとっては非常にわかりにくい。

何処から乗っていいのかまるでわからず、3人は色々な所を歩き回っていた。

折角、早い時間から楽しもうと思っていたのに、

ずいぶんと余分な時間がかかってしまった。


「う~ん、迂闊だった。もっとしっかり確認しておくべきだったなぁ」

冬馬は下準備は万全と思っていただけに、

まさかこんな落とし穴があるとは予想していなかった。

「起きてしまったことは仕方ないし。気を取り直していきましょ」

夏子は相変わらずのマイペースだ。まぁこれが夏子の魅力でもあるけどね。

「もう北野さんったら。しっかり案内してくださいよ~」

「じゃあ、美里ちゃんが案内して」

夏子が美里に向かってニッコリ笑いながら頼んだが、

何故か美里の顔が少しこわばっていた。


「私……あの~あまり得意じゃないんですよ。方向感覚なくて……

それにスマホで地図見た方が楽だし……

地下鉄は駅がいっぱいありますから……」

夏子はしまった、という顔をした。

安藤さんが少し気まずそうな表情をしたのに冬馬は気付いた。

でもここで引き返すのは勿体ないと思いなおし、

3人でスマホをみることにした。

…結局、三人寄れば文殊の知恵にはならず、

二度ある事は三度ある。再び迷ってわからなくなって、

どうしようもなくなって最後には駅員さんに聞いて教えてもらい解決。

最初から聞けばよかったのにと後悔。

3人はようやく目的地にたどり着いたのだった。

水族館を楽しむ前にへとへとになろうとは。


「なんか無駄に時間かかった気がするなぁ。でも折角だから楽しみたいね」

夏子はちょっと機嫌が悪くなっていた。まぁ仕方ない事かな。

「そうですね、楽しみましょー!」

安藤さんは空元気だった。う~ん、どうやってご機嫌とろうかな?

「今日は俺が二人を楽しませてやるよ」

冬馬は大袈裟な言い方をしたが、

それが彼なりの慰めである事は二人ともわかっていた。


「ま、何とか到着したから、たのしもー、おー!」

沈みかけた気持ちを払拭するため、夏子は声をかける。

でも他の二人の反応はイマイチだった。


「夏子、空回りしてるぞ…」

冬馬はボソッと呟いた。

「何よ、冬馬くんのイケズ~」

「仲いいですよね、二人とも」

安藤さんは一人取り残されている感じだった。

どうするよ、この空気。


「まぁいいや。早く入ろう、水族館に」

夏子は安藤の腕を掴んで引っ張った。ずいぶん強引なこった。

「ちょ、ちょっと待って……」


冬馬は1枚足りない分のチケットを購入した。結構、いい値段するんだな。

まぁ水槽の維持費とかも大変そうだし、それは仕方ないかと。

「でも年間チケットって、3回行けば元を取れるくらいなのね。

お得じゃないの?」

夏子は料金表を見て思った事を口にした。うん、確かにそうだな。

ここが気に入ったら買うのもいいかもなぁ。

「そうだな。気に入ったらまた来るのも悪くないな」


「あ……あのぉ……」

安藤は何か言いたげだった。どうしたんだろう?

「ん?どうしたの?」

「あのですね……。私、水族館は初めてで……。そのぉ……」

安藤はモジモジしていた。どうやら緊張してるようだ。

「そっかぁ~じゃあ最初は私が案内してあげるね♡」

夏子は嬉しそうに答えたが、夏子って水族館に詳しかったっけ?


「ありがとうございます。しっかりエスコートしてくださいね♡」

安藤さんは夏子の腕にしがみついた。まるで仲のいい姉妹のようだ。

「あのぉ、俺の立場は…」

冬馬の男のメンツは丸つぶれだった。悲しい…。

「冬馬くんは荷物持ちね♡さぁ、行くよ」

夏子は安藤さんと一緒に行ってしまった。

一人取り残された冬馬は寂しさを覚えていた。

(まぁ、いいか……)

二人は楽しそうに歩いているし、気にしなくてもいいだろうと思い直した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る