第38話 PHASE4 その4 朝から賑やか

「じゃあ、行ってくるね。お土産楽しみにしていてね」

「行ってらっしゃい、冬馬くんと仲良くね」

「折角のデートでしょ。泊まって楽しんできてもいいのよ」

「お姉ちゃん!今日は美里ちゃんもいるのよ」

デート?当日、南田家の玄関先は賑やかだった。

元気な母親と姉に見送られて夏子は駅へと向かっていった。

父親は恥ずかしくて出てこなかったが、やはり娘の事は心配に思っているだろう。


本当は冬馬と一緒に駅に向かいたかったが、

方向が逆になるので駅での待ち合わせになった。

(本当は冬馬くんと二人きりが良かったけど、

美里ちゃんとも一緒に遊びたかったから、これでいいよね?)

夏子はそんな事を考えながら駅へと向かっていった。


まだまだ暑い日々が続いている。今年の夏は猛暑の日が続いていた。

いつまでたっても涼しい日々は来やしない。

今日もいい天気だから真夏日は確実、下手すれば猛暑日にもなりそうだった。

でも夏子にとっては、夏は好きな季節。名前の通り夏の子だった。


(よく考えたら、デートらしいデートってした事なかったよね。

いつも買い物とかばっかりだし。今日は楽しめたらいいな)


よくよく思い返してみたら、買い物や食事以外の遊びに行くデートは初なのに。

記念すべき初デートと思ったら、3人での行動になるって……。

まず出会いからいっても、つくづく自分たちは異端だなと感じていた。

それでもそんな夏の思い出が出来るという事を考えたら、

朝から嬉しくてたまらなかった。


集合時間よりもだいぶ早く到着してしまったので、まだ誰も来ていない。

暫く冬馬達を待っていると、見た事のある姿を確認できた。

そしてこちらへと段々近づいて来る。


「おはようございます、夏子さん。早いですね♡」

「おはよう、美里ちゃん。かわいい服ね。気合入ってる?」

集合場所にやって来た安藤さんは、

周りの注目を集めそうな可愛らしい恰好をしている。

本人は可愛くないと日頃言っているが、そんな事はない。

夏子は安藤さんは充分過ぎるほど可愛いと感じている。

思わず抱きしめたくなるくらいに。

安藤さんが本気になったら、どんな男性も虜にしてしまうのではないか

とも思うくらいだった。


「いつもこんな感じですよ。夏子さんこそ、お洒落さんじゃないですかぁ~」

「私服なんて、どうでもいいのよね~私って」

「そんな事ないと思いますけど。お洒落ですよ!」

「そうかなぁ~。でもありがとうね」

「いえいえ」


安藤さんの服装は夏子にとって、お洒落と感じるけど

可愛らしさも感じられる素敵なコーディネートだなと思えた。

そして何よりもとても似合っていた。


二人で他愛もない会話をしていたら、冬馬がやってきた。

「おはよう、早めに来たつもりだけど、みんな早いね」

冬馬は、いつもの半そでのシャツに薄手のスラックス。

ちょっとおしゃれな感じなリュックを肩にかけていた。


「北野さん、意外とおしゃれじゃないですかぁ~♡」

「おぅ。夏子と出掛けると思ってな。ちょっといいのを着て来たぞ」

「あら、嬉しい♡」

とはいっても、冬馬はおしゃれには無頓着なので、バラエティには乏しい。


「それにしても夏子さんの服、可愛い!どこで買ったんですか!」

一方、安藤はファッションに詳しいだけあって

夏子のコーディネートに注目していた。

「これ?通販だけど?」

確かに夏子の服はよくネットで買ったりしていたが、

あまり着飾る事に興味はないからと、 シンプルなものを好んでいる。


「ところで~、夏子さんの今日のファッション、どう思いますかぁ~」

いきなり振られた冬馬は戸惑ったが、素直に自分の意見を言うことにした。


「…可愛い。」


冬馬は、恥ずかしくてボソッと言ったに留まった。いや実際、可愛いし。

何か素敵だなとは思っていた。でも、なかなか口に出せなかった。


「も~、北野さんったら照れちゃって。可愛いとこあるんですね♡」

「うっさい、ほっとけ」


冬馬は精一杯の照れ隠しをした。ずっとぼっちだったから、

どう対応したらいいかわからないだけだったけど。


「そんなことより、出かけましょう。今日は一杯、楽しむんだから」

本当は、夏子は冬馬と二人で出かけたい思いがあったけど、

その思いは横においといて、今日は楽しみたいと思ったのだった。

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