第8話 加奈子の不都合 その二
私は、玄関に入った時、お父さんとお母さんが上がり縁で物凄い形相で私を睨んでいた。
「ど、どうしたの。お父さん、お母さん」
「加奈子、直ぐにリビングに来なさい」
どうしたの?見当もつかないままリビングに連れていかれると
「座りなさい」
両親と反対側のソファに座ると先にお父さんが
「さっきまでそこに雄二君が座っていた。理由は簡単だ。お前が雄二君との事を教えてくれないので、家の前で会った彼に、ここに来て貰って話を聞いた」
「……………」
「言いたい事は分かるな?」
「何を言っているか分からないわ。私は今日、友達と会って来たの。明日も会うから早く寝たいんだけど」
お母さんが、少し涙目になりながら
「加奈子、なんであんなはしたない事をしたの。お母さん、あなたの育て方をどれほど誤っていたか…。何であんな事を」
「何を言っているのか分からないんだけど?」
「雄二君ではない別の男とした事だ」
「あぁ、バレちゃったのね。雄二の馬鹿が話したのか。でも証拠も無いでしょ。大袈裟に言っただけじゃないの」
バシッ!
「何するのよ。好きな人とラブホに行くのがいけない事なの?お母さん達だって若い時は行ったんでしょ!」
バシッ!
「馬鹿者。雄二君はお前と男がラブホに入って、出てくる所までを動画で見せてくれた。それだけでない。その後、ビルの隙間でその男と口に出すのも憚られる様な事をしただろう。その動画も雄二君から見せてもらった」
「えっ?!」
な、なんで、なんで雄二がラブホの出入りとその後の事まで動画で撮っているのよ。あの時は、確かに隆が、外でやるのも興奮するからと言って、私も抵抗あったけどした。
誰かに見られる、誰かが来るかも知れないという緊張感が余計いかしてくれたけど、まさか動画に取られているなんて。それも雄二に。
あいつ、どこまで私の足引っ張るのよ。
「そっかぁ、バレたか。その人は後藤隆。私が結婚してもいいと思っている人。今度紹介するわ」
「何を馬鹿な事言っている。今は一番大切な受験勉強の時期だろう。何が結婚だ。大体、その後藤という何処の馬の骨とも分からない輩と結婚させる訳無いだろう」
「隆は、イケメンで私にとっても優しいわ。あの人以上の人なんていない。今度連れて来るわよ」
「そんな事許さん。その男に我が家の敷居は跨がせない!」
「そうよ。加奈子。今ならまだ間に合うわ。一生懸命勉強して雄二君に相応しい女性にもう一度なりなさい。もしかしたら、遅いかも知れないけど、あの子なら分かってくれるわ」
「いやよ、雄二なんて。金しか持っていない陰キャクズ野郎じゃない」
「加奈子!雄二君に失礼だぞ!」
「お父さんに何が分かるのよ!」
「加奈子!」
私は話しにならないと思って、家を飛び出した。後ろからお母さんの声が聞こえる。
外に出て、思い切り走った。それから坂を下ったところで疲れて近くの縁石に座った。
ハァ、ハァ、ハァ
なによ、なによ。皆好きな事言って。私の言っていることなんて、はなから聞こうとしない。こうなったら、明日、隆を家に連れて来てどんなに立派な人か見せてやる。
私は急いでポケットからスマホを取り出すと隆に連絡した。少しして出た。
『隆、私』
『加奈子か、どうした?』
『明日、私の両親に会って』
『はぁ? (隆、誰、早く続きしよう)。五月蠅いちょっと黙ってろ』
『隆、誰かいるの?』
『ああ、従弟が遊びに来ていて五月蠅いんだ。(酷ーい。従弟とは何よ)』
どういう事、女の声じゃない。
『隆、側に居る人って』
『あんた、私の隆に何の用よ(おい勝手に話すな)』
『えっ、隆、隆』
『ああ、ちょっと立て込んでいるんで今度な』
ガチャ。
切られてしまった。隆は付き合っているのは私だけだと言っていたのに。まさか、他に女がいる?!
なんなの、じゃあ私は隆の何なの?
「君」
「えっ?!」
「こんなところで何をしている?」
「あっ!」
私は直ぐに立って逃げようとして、その人のお腹に頭から突っ込む様になってしまった。
ぐぁ!
不味い。逃げなきゃ。
「おい、逃げるな」
手を掴まれた。
「やめてー!」
加奈子の家では
「お父さん!」
「心配するな。直ぐ帰って来る」
三十分程して家の固定電話が鳴った。
『もしもし』
『こちら田田調布警察です。深山壮一さんですか?』
『はい』
『今、深山加奈子さんを預かっています。本人が父は深山壮一と言っていますが間違いありませんか?』
『間違いありませんが、何で娘が警察に?』
『詳しい事情はこちらに来てお話したいのですが』
『分かりました。直ぐに行きます』
「母さん、直ぐに田田調布警察に行って来る」
「えっ?!」
「理由は分からないが、今加奈子は警察にいるらしい」
「えっ、警察に。私も一緒に行きます」
私が、警察に行くと婦警の前の椅子に座らされていた。受付で名乗った後、娘の傍に行くと
「加奈子!」
「お父さん、お母さんも」
「あなたが深山壮一さんですか?」
「はい、娘が何故警察に?」
「実は…」
夜間巡回の警察官が、縁石に座っている加奈子を見つけ、声を掛けた所、行きなりお腹に頭突きを入れられ、よろめいた所を逃げそうになったので、公務執行妨害で逮捕したという事だった。
「申し訳ありません。本当に申し訳ありません」
私が必死に頭を下げると
「いえ、本人が悪意を持ってやった訳では無く、起き上がった時に偶然ぶつかったという事で、犯罪ではありません。もう遅いので迎えに来て頂いたまでです」
「そうですか。加奈子。お前も謝りなさい」
娘はしゅんとしている。
「大丈夫です。もう十分に反省している様です。あそこで手続きしてもうお帰りになって下さって結構です」
「そうですか。本当に申し訳ありませんでした。帰るぞ加奈子」
「うん」
私は、警察官に摑まった事より隆に他の女が居た事がショックだった。その女は言った。
『私の隆に何の用よ』
あれは、昨日、今日で知り合った関係じゃない。でも、私が一番のはず。明日の朝、連絡してみよ。
家に着くとお父さんが
「加奈子、疲れているだろう、お風呂に入って寝なさい」
「ごめんなさいお父さん、お母さん」
お母さんが私を抱いて
「加奈子、心配したのよ。今日は良く休みなさい。もう一度明日良く話しましょう」
「うん」
私は、一抹の不安を抱えながらも疲れているのか直ぐに眠れた。そして次の朝、午前八時は早いと思いながら隆に連絡した。
中々出ない。…やっと出た。
『隆、私、加奈子』
『何だこんなに早くから(隆、誰こんなに朝早くから)』
『隆!昨日の女と一緒にいるの?付き合っているのは私だけって言っていたよね。どういう事?』
『ああ、いやぁ、まあ、お前とはもう二年も経つし。お互い飽きた頃かなと思ってな(ねえ、もしかして調子に乗って、どこでも股開くって言ってたあの馬鹿女)。馬鹿何言っているんだ。あっ、加奈子。こいつは…』
私は、思い切りスマホを壁に投げつけた。
あははっ、遊ばれていたのは、私だったんだ。涙も出て来なかった。
ただ、少しして投げつけたスマホをもう一度床から拾いあげると…思い切り涙が溢れ出て来た。
―――――
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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