青空。 事故で大切な家族を亡くし、親戚には慰謝料を全て取られ、俺を心配して近付いて来たと思った隣の子には財産目当てだと知った俺の顛末。

@kana_01

第1話 プロローグ


 事故で大切な家族を亡くし、親戚には慰謝料を全て取られ、俺を心配して近付いて来たと思った隣の子には財産目当てだと知った俺の顛末。


―――――


 ラジオから昔流行った有名な曲が流れている。側で俺の大好きな彼女が一緒に聞いている。


『命かけてと誓った日から素敵な思い出残して来たのにあの時同じ花を見て美しいと言った二人の心と心が今はもう通わない……』(注)



「雄二、好きだよ」

「ああ俺もだ、加奈子」

「絶対ずっと一緒に居ようね」

「うん」

 そう言って二人で夕焼けを見ていた。





「加奈子、今度の日曜日あそこ行こうか」

「ごめん、ちょっと用事があるんだ」

「そうか」


 前は、こんな会話もする必要も無かった。目を合わせればいつも一緒。何も言わなくても加奈子と俺の気持ちは同じ所を見ていた。




 俺、高槻雄二(たかつきゆうじ)は彼女、深山加奈子(みやまかなこ)が用事があると言った日、二つ隣の駅の改札を出て本屋に行くか一人で映画を見るか考えていた。


 急ぐことは何もない。のんびりと気の向くままに歩いている。いつもと何も変わらない景色だけど一人で歩いていると別の色になる。


 加奈子と歩いていたカラフルな景色が、モノクロに見えるのは気の所為かな。やっぱり今日は帰ろう。加奈子と一緒が一番だ。



 踵を返して本屋から映画館に向かう道を戻ろうとすると坂道を降りてくる見知った女の子が居た。


 そしてその隣には俺の知らない男。その子は、その男の腕を思い切り抱きかかえて楽しそうに会話しながら坂道を降りてくる。


 俺は、足が動かなくなり茫然と二人の姿を見ていた。


 そしてお互いが視覚の中に入った時、


「「な、なんで?!」」


 その子は相手にしがみついていた腕を振りほどき、俺に視線を合わせた。


「加奈子?」

「雄二!」


「どうした加奈子?」

「あっ、うん」




「どうして、どうして加奈子?」


 俺は、何も考えられず、直ぐに目に入った脇道へ走った。

「ま、待って雄二…」




 どこま走ったのか分からない。この辺は、登り坂や、下り坂、平たんな道が混ざり合っている。


 息が切れて道路に尻餅を着いてしまった。


 はぁ、はぁ、はぁ。


 どうして、どうして。どうして。



 俺の頭の中で理解出来る事では無かった。ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、一生一緒に居ると思っていた。

 自分の気持ちが消化しきれないままその場にお尻を着いたままいると


「君、大丈夫かね?」


 その声に顔を上げると、見たくもない人達、そう警察官だった。俺は直ぐに立って必死に走った。

「おい、ちょっと待て」


 警察官の声が段々遠くに消えていく。もう隣駅まで来てしまったようだ。


 とにかく、家に帰らないと。何も考えられないまま電車に乗り、地元駅で降りて俺は家に帰った。


「ただいま」


 シーン。


 はははっ、返事をする人なんていない。





 俺が高校に入ってすぐの時だった。俺を除いてみんな死んでしまった。俺が塾に行って居る時だった。


 警察から聞いた話では、父さん、母さんと妹が乗った車が、直進信号が赤になり右折信号が出た所で右折しようとした時、反対側車線から信号を無視した大型トラックが左側面から衝突。


 家族が乗った車は、そのまま反対側車線で信号を通り過ぎて止まっていた車に挟まれ死亡した。


 それを知ったのは、家に帰って誰も居ない事に不思議に思いながら家の中で家族の帰りを待っている時だった。



「雄二君、ご両親が!」


 教えてくれたのは、隣に住む加奈子の母親だった。



 俺は、直ぐに病院に連れて行かれた。そして病院について連れて行かれたのは病室では無く遺体安置所だった。


 処置はしてあるのか、見た目は綺麗だった父さんと母さんと妹の白布を上げると体中が傷ついた姿が有った。欠損している所もある。

 頭が真っ白になった。



 時間が経ち冷静になった時、俺の頭の中に浮かんだのは大型トラックに乗っていた運転手への憎しみだった。



 悔しい事にその男は、怪我をしていないどころか、痛みも何も感じなかったそうだ。ただ、目の前にいきなり車が出て来たと言っていたそうだ。

 そしてそいつは、執行猶予とかで刑務所にも入らずのうのうと社会を生きている。



 こんな馬鹿な事が有ってたまるか。しかし高校に入ったばかりの俺には何もなすすべが無かった。一人身になった俺は、田舎の親戚に預けられた。


 何処にも行く当てもない俺に最初はとても優しくしてくれた。


 でも事故の裁判も終わり、事故で殺され俺の家族に対する慰謝料が入ると、親戚が俺の世話料だからと俺の口座から全部親戚の口座に移された。



 そしてその時から親戚は俺をゴミの様に扱った。表向きは親戚の同い年の女の子が、俺がその子にいやらしい事をしているという根も葉もない理由からだった。



 その事で俺は親戚の家での居場所をなくした。仕方なくまだ残っていた元の家に帰るしかなかった。親戚の家に来てもう半年が経っていた。



 そして、元の家に戻った。たった一人で。でも俺は寂しくなかった。ここには俺の家族がいる。かけがえのない家族が。


 俺は、学校にも行かず、いや行ける学校も無く、自分のお財布と自分の通帳に残っているお金でスーパーやコンビニで買ったレトルト食品やカップ麺で生活を凌いでいる時だった。


 事故の時にお世話になった前田卓(まえだすぐる)弁護士がやって来た。


 そして俺の両親が残した家や財産の相続権は全て俺にあると言って手続きをしてくれた。


 一度転校した田舎の高校から元の高校への転校手続きまでしてくれた。親戚が奪い取った事故の慰謝料も取り返してくれた。


 勿論、手数料は取られたけど、きちんと弁護士の案件毎の手数料表も見せてくれた。


 なぜ、こんな事してくれるのかと聞いたら隣の家の加奈子の両親が、俺の可哀想な姿を見て心配して事故の時に顔を知っていた前田弁護士に声を掛けてくれたそうだ。


 その後も少し残った色々な相続問題も全てその弁護士が片付けてくれた。なんでここまでしてくれるのかと聞いたら、


 仕事だからやっているだけだ。最近は弁護士だって生きるに大変なんだ。その代わり法律に合わない事はしない。だからいつでも声を掛けてくれという事だった。


 俺は、こんな人間(弁護士)の方が信用できると思った。綺麗ごとよりビジネスライクにしっかりと俺を守ってくれる人の方がいい。



 そして俺の手元には、親が残してくれた家と土地、別荘と株や現金など実に二十億もの資産が残った。

 不思議に銀行や証券会社も俺に優しかった。全部弁護士が下地を作ってくれたおかげだ。




 元の家に戻った時、隣に住んでいる加奈子と久しぶりに会った。中学の終りの頃から綺麗だったが、一段と綺麗になっていた。俺への同情も有ったのかとても優しく接してくれた。

 俺はいつしか加奈子と一生一緒に生きて行きたいと思う様になった。加奈子もそう思っていると思った。



 でも今日、その加奈子が俺の知らない男に腕を巻き付きながら嬉しそうな顔をして歩いていた。




 家の中に入ると直ぐにドアに鍵を掛け自分の部屋に入った。


 シーンとしている。何の音も無い。


 俺の部屋に置いてある家族の写真。俺が中学二年の時、家族で行った九州の有名な温泉の前で旅館の人に取って貰った写真だ。


 ねえ、なんで俺だけ残して逝ってしまったの。


 なんで俺だけ残ったの。


 そんな事を考えても何も家族は誰一人応えてくれない。ただ微笑んでいるだけだ。



 いつも悲しくなったそんな時、いつも加奈子が俺を慰めてくれた。


 大丈夫だよ。私がずっと、ずっと一生雄二の傍にいるから。そう言われて少しずつ元気になった。


 あれから二年。毎年家族の命日には加奈子の家族と一緒に墓参りにも出かけた。もう三年の夏も過ぎ受験に必死になっている、塾も一緒だ。いつも一緒に居ると思っていた。




 それなのに、それなのに。


 もう加奈子と一緒に居る事も無いんだろうな。


 さっきからスマホが五月蠅い。ずっと加奈子だ。出る気にもならない。もうスマホも変えよう。




 隣の家が俺に優しかったのは俺の資産が目当てだったんだろうか。だから加奈子を俺に差し向けた。


 取り柄も何も無い俺に高校でも一、二を争う美少女の加奈子が優しくしてくれたのは、俺の資産が目当てだったんだ。


 そうだ。その通りなんだよ。だから幼い時から知っていて、こちらに帰って来て付き合い始めて二年も経つのにキスも出来なかった。彼女がそういう事は結婚してからと言っていたのを思い出した。


 ふふっ、馬鹿だな。少し考えれば分かる事なのに。来週からどうすればいいんだろう。また弁護士に相談するか。


 まだ、午後三時だけど寝よう疲れた。


 一階でドアフォンが鳴っているけど毛布を掛ければ聞こえない。


―――――


注)著作権法32条1項及び過去の判例を考慮した上で、加藤和彦氏・北山修氏のあの素晴しい愛をもう一度の歌詞を一部引用させて頂いています。


 面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価★★★頂けると次話書こうかなって思っています。

宜しくお願いします。


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