第五話 剣仙の皇子と声の大きな直臣
二人とも二十代半ばくらいであろうか?
一人は
もう一人も背は高いがすらりと細く、深い青の瞳が涼やかな青年だ。白銀の長髪をたなびかせ女と見紛う程の美形だが、見た目と違い藍染めの衣の下に隠れた身体はしっかりと筋肉で引き締まっている。
特筆すべきは腰に宝飾のある剣を帯び、高価な
彼がやんごとなき貴人であるのは間違いない。
「
「馬鹿、そんな大声を出すな」
「も、申し訳ございません」
「それでなくとも
どうやら大柄な青年は
「それで何だ?」
「どうして
刀夜は日輪の国の第五
「皇子と言っても俺は五番目だし、将来は
第一皇子の泰然は品行方正な人物であり次代の
日輪の国には他にも第二皇子の
泰然以外は刀夜より歳下なのだが、生みの母の身分が低い為に彼が最も序列が低い。
「それに、俺が授かった
千剣之仙は比類なき剣才を与える強力な
また、刀夜自身も剣を好む性分で臣籍降下して軍部に入ろうと考えていた。
「人格者である兄上が帝になった方が民の為でもあるしな」
そう言って刀夜はからりと笑う。
「泰然様が帝位に座られるのに異存はございませんが……」
刀夜は
そんな傑物である自分の主人を夏琴は誇りに思っている。だから、泰然はともかく他の三人の皇子の下に刀夜が置かれているのが我慢ならない。
「第二だろうと第五だろうと帝位に着かないならどちらも同じだ」
「それはそうなのですが……」
「お前の心配も分かる」
言葉にこそしないが夏琴の不満や不安は刀夜にも理解できる。
泰然の即位を望まぬ者も少なくない。今回の件も泰然の失脚を目論む聆文か瑞燕の仕業に違いないと睨んでいる。
「だからこそ内々にこの件を処理しなければならん」
珍しく刀夜の顔が苦々しくなった。
「十二獣の一柱が行方不明だなどと知られては
十二獣とは日輪の国を守護する十二体の霊獣である。
その内、宮中に巣食う
事が公になれば帝が守護霊獣に見限られたと思われかねない。秘密裏に捜索されたが行方は一向に判明しなかった。
ところが先日、
それも最悪の形で――
「国を守護する霊獣が人を襲ったとなれば一大事」
虎の
「しかも場所が問題だ」
「場合によっては兄上が窮奇失踪の責まで問われかねない」
皇位継承権の順位が変わる可能性さえある。
「最悪、
性は酷薄無情、自らの小知を以て他者を見下し、
彼が帝座に就けば民は苛政で苦しむのは必定。国内が
「
聆文が帝となって君臨する姿を想像して夏琴が顔を
「まさかこの件は聆文様が裏で糸を引いているのでは?」
「滅多な事を申すな。お前はそれでなくとも声が大きいのだ」
何処で聞き耳を立てられているか分からない。他人を
「も、申し訳ありません」
「お前の気持ちも分からないではないが……」
聆文は無用に権謀術数を好む癖がある。それを知るだけに、この窮奇の騒動は聆文の企みだろうと刀夜も睨んでいた。
(口惜しいが証拠がない以上は糾弾もできん)
それに今回の件に関わっていないとしても、帝位を狙っている野心家の聆文が泰然の失脚を目論んでいるのは間違いない。
泰然を帝にしたい刀夜にとって、聆文はいずれ排除せねばならない政敵なのだ。
「とにかく犯人が誰であれ兄上の
「しかし、泰然様は
「分からん」
それは刀夜も疑問だった。
「兄上にも何かお考えがあるのだろう……」
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