天使かと思ったら魔王でした。怖すぎるので、婚約解消がんばります!

水無月 あん

第1話 のびのびした人生をおくるため、がんばります!

 わたしの名前はアデル。オパール国の第二王女。

 王であるお父様と同じ金色の髪に、王妃であるお母様と同じグリーンの瞳を持つ、背は低めの14歳。


 変わったところといえば、日本で生きた前世の記憶があること。

 今の王女より、そのころの庶民の私のほうがしっくりくるのよね。


 でも、まあ、14年間のたまもので、見た目は、がんばって、王女らしさを醸し出しているつもり。


 そして、今がまさにその真っ最中。

 隣国からのお客様をもてなすパーティーが開かれているから。

 

 美味しそうな料理を前に、飲まず食わずで、笑顔をはりつけ、重いドレスを着て、同じような挨拶を受け続けている。


 はあー、疲れた。早く終わって欲しい……。


 昨日、読み始めた本がおもしろくて、睡眠時間を削りまくって読んでいたから、眠いのよね……。もう、まぶたが閉じてしまいそう。


「アデル、あくびはやめてね」


 と、隣から、声がとんできた。

 

 婚約者のユーリだ。

 ロンバルト筆頭公爵家の嫡男で、私より8歳年上。今年、22歳。

 

 何より目をひくのは、そのきらびやかな容姿。

 

 細身で長身。さらさらした金色の髪は、私の金色とは比べようもないほど、まぶしく、青い瞳は宝石のよう。

 と、私の語彙力が平凡で、いまいち、そのすごさが伝わらないけれど、つまりは、ものすごい美貌ってこと。

 寝不足の目にはまぶしすぎる……。

 

 「はいはい。あくびなんてしないわよ」

 と、適当に返事をすると、何を思ったか、ユーリが、私に顔をよせてきた。

 

 「ちゃんと寝ないと大きくなれないよ?」


 はあ!? 

 自分が背が高いからといって、ちびっこの私にけんかを売ってきたわね!? 

 むっとしたら目がばっちり覚めた。

 

 ユーリがそんな私を見て、フフッと笑った。


 その途端、令嬢たちが、ざわめだした。

 

「はああ、ユーリ様が笑ったわ!」

「なんて美しいの」

「すごい色気よね」


 案の定、ユーリへの称賛の嵐。

 そして、そこへ続くのは聞かなくてもわかる。


「婚約者のアデル王女様がうらやましいわ」

「アデル王女様って、確かにお可愛らしいんだけど、子どもっぽいから……」

「失礼だけど、似合っておられないわよね?」

「ほんと。大人の色気のあるユーリ様なら、もっと大人の女性がお似合いよね」

「でも、王命だもの。ユーリ様も断れないのじゃなくって?」

「いいわよね。王女様は……」


 ……って、おいおい。

 悪口が全部聞こえているんですが!?


 確かに、私は平均身長より、ちょーっと小さめで、ちびっこよ。

 でも、今はまだ14歳。のびしろはある……はず。


 それに、私がちびっこ童顔で、あなたたちに迷惑をかけましたか!? 

 かけていないわよね?! 

 

 それに、なにより、あなたたちの言う通り、この婚約は王命。

 つまり、ユーリだけじゃなくて、私だって、望んだことじゃないってこと。

 

 というか、代わってくれるなら、代わって欲しいわ。

 だって、年頃の令嬢たちの恨みを買い、悪口を言われまくるんだもの。


 きっと寝不足のせいね。いつも受け流せる悪口に、いらだってきた!


 私は、隣で、優雅に立っている諸悪の根源をにらみつけた。

 しかし、ユーリは、涼しげな顔で微笑み返してくる。


 あちこちで令嬢たちの悲鳴があがった。


 いやいや、みなさん。もっと、ちゃんと見て? 

 ユーリの目、ちっとも笑っていないから。それどころか、鋭すぎて怖いから。


 そう、ユーリは、その腹黒本性を、きれいにまるっと隠している。

 きっと、その本性に気づいているのは、私と、彼の弟のマルクだけだと思う。

 被害はこの二人に集中しているもの。


 ということで、予定では、あと2年たったら結婚して、私が公爵家に入るのだけれど、冗談じゃないわ。

 腹黒ユーリに管理される人生なんて、絶対に嫌だから。

 まあ、ユーリも王命で仕方なくだろうし。


 ということで、私は作戦を考えたの。そう、婚約をとりやめる作戦を!

 それはね、…ムフフフフ。

 

 「ちょっと、アデル。その気味の悪い顔、ひっこめて」

 すぐさま、隣から冷たい声がとんできた。

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