第2話

「はあ。憂鬱だ。」

茜が言うぐらい人気者な日比谷さんにお昼を誘われたなんて皆に虐められそう。

「もしかして嫌だったか?」

「ううん。私はいいけど、私なんかが日比谷さんと一緒にご飯を食べるなんて、後から何て言われるか…。」

「そうか。悪かった。なら、連絡先交換してそれでやり取りしないか?」

確かにいいかも!

「うん!いいよ!」

携帯を出して交換する。

「あとさ、日比谷さんって言うのは辞めない?」

少し不機嫌そうにしている。

「じゃあ、なんて呼べばいい?」

「透は?」

透なんて呼んだらファンに殺されるよ!私はブンブンと首を振る。

「なら、せめて日比谷君って呼んでくれ。

…他の人と変わらないがこれからだからな。」

最後の方は聞こえなかったけど日比谷君ならいいかな!

「分かった!日比谷君。」

良いと分かっていてもドキドキしながら名前を呼ぶ。

「おう!よろしくな!」

日比谷君ってこんなに幸せそうに笑うんだ。私だけかな?…私だけだと嬉しいけど。…って!嬉しいって!何でそう思ったんだろう!?あまりにも日比谷君が優しくて好きって言われたから調子乗ってる。

「澪?なんか顔赤い。大丈夫か?」

頬に触れられるその瞬間、ドクンと胸がなる。これはよく知らない人に触られて怖い緊張なのかな?

「…なあ、俺と2人の時は前髪上げない?」

髪を触られる。正直怖い。よく知らない人に顔を見せるのが。よく知ってるあの先輩でも大変なことになったんだから。でも、

「…うん。いいよ。」

優しい笑みで見つめてくる日比谷君を見ると安心してつい許してしまった。



「じゃあ、またね。」

日比谷君はやっぱり優しい。これは好きな人だからか、それとも、

「透!どこ行ってたの?」

「お昼ご飯だ。」

「えー!私たち以外と!?」

「誰と行ったんだよ!」

「なんだよ!俺が居なくて寂しかったのかよ。今度一緒に出かけるから許せ!」

「仕方ないな!もう!」

私と離れた途端、友達に囲まれている。やっぱり優しいのは私以外にも、か。

「…私にだけ優しくして欲しいな。」

小さな独り言を口に出してからハッとなる。何言ってるんだ。好きって言われたから私も好きな気がしてきた。まだよく知らないのに。

「澪!おかえり!」

いつものメンバーの元へ向かおうとすると、

「ねえねえ!成瀬さん!日比谷君と一緒にご飯食べてたの?」

あまり話さないクラスメイトに捕まる。日比谷君の事が好きなのかな?

「はい。そうです。」

「えー!なんで?」

なんて言おう。日比谷君が私の事好きと言っても信じてもらえないだろうし。

「あ、でも成瀬さん気をつけてね?日比谷君、タラシなんでしょ?」

え?タラシ?タラシって言葉巧みに相手を誘惑すること?確かに日比谷君は皆に優しい。そうなのかな?

「ねー。私もそれされえなければ付き合いたいのにな!」

「いやいや!無理でしょ!日比谷君にはもっと相応しい人じゃないと!」

相応しい人。私はきっと相応しくない。それにタラシの事もきっと事実だろう。だって日比谷君とは話したこともないし、電車で助けてもらっただけだ。本気にしてはだめ。分かっていてももう少しだけ好きになってる自分がいる。諦めなきゃ。

「あ!湊先輩を見に行かなきゃ!成瀬さんまたね!」

クラスメイトは用があるみたいで行ってしまった。私は友達の元へ向かう。

「澪!大丈夫?あの子たちイケメン好きで敵には気が強いからあまり当てにしないでね?」

茜が慰めてくれる。茜は日比谷君がタラシって事は言ってこなかったから嘘なのかな?

「でも、日比谷君がタラシって有名だよね?」

「陽菜!」

「あ、ごめんね。澪が仲良くなりたいなら応援するよ!でも、澪は優しすぎるから騙されないようにね!」

陽菜もあまり仲のいい子以外には興味が無い。そんな陽菜が言うならこの噂は相当、有名なのだろう。

「…うん。ありがとう。」

私は日比谷君の本性に衝撃を受けていた。でも、それでも、私は…。



「澪!」

知り合った初日なのに私はもう名前を呼ばれるだけでときめいてしまっている。でも自分の心に嘘をつかなければいけない。何故ならこれ以上好きになってしまったらこれ以上の関係を望んでしまう。

「澪?大丈夫か?」

背中をポンと触られて、振り返る。

「…あ、ごめんね、気づかなかった。何?」

今、上手く笑えてるかな?

「良かったら一緒に帰らないか?電車通学だろ?」

この笑顔に惚れて見せてくれるのが嬉しかったけど今はこの笑顔を見るのが辛い。だって、あなたは私以外にもこうやって笑いかけて優しくしてるんでしょ?本当は私の事好きとか嘘でしょ?断ろうかな。でもそんな勇気は無いな。

「嫌か?」

「ううん。行こう。」



「澪って親友が居るのか!」

まだ頭の中で整理が出来てないけど少しづつこの気持ちに嘘つこう。

「居るよ。明るくて優しいの。知ってると思うけど違うクラスの颯太だよ。」

「…颯太…。」

颯太の名前を出した途端、無表情になった。

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