第2話 探求心に任せて

「ルウの頭の中は、地球でいっぱいだね!」


 出発日が待ち遠しそうなルウリーシアを見ているだけで、嫌味を言いたくなるライリーシア。


「地球って、どんな星なのかしらね? ライは、楽しみでは無いの?」


 ルウリーシアの円らな大きな瞳が、ライリーシアの心を見透かそうと覗き込む。

 たまに意見が食い違う時、ルウリーシアに心を読まれないよう、ライリーシアはテレパシーを遮断した。


『ライ、どうして……?』


 先刻まで、あれほど輝いて見えた地球風夕焼け空が、二人の不穏な心模様に負け、視界から消えて行った。


「楽しみでない事は無いけど……僕は、ここの生活が気に入っているから」

 

 自由に幸せに過ごせるアクエリーシア星より、未開の星『地球』を選ぼうとしているルウリーシアの気持ちが理解出来ないライリーシア。


 顔は似ていても、二人の考え方は対照的で、ルウリーシアはポジティブ思考、ライリーシアはネガティブ思考の傾向が有った。


「私だって、アクエリーシア星が大好きよ! ここでの暮らしは、何もかも満たされていて、とても幸せ! でも、ライも見たでしょう? これから私達が向かう星、地球の未来の予想映像。あんなに美しい星なのに、人間同士が殺し合ったり、動物達の居場所を無くすくらい自然を破壊してしまうのよ! もしも、少しでも食い止められるなら、何とかしたいと思うでしょう?」


 二人に見えている地球の未来は、あくまでも、現状のまま進んだ場合の予想映像で、必ずしもそうなるとは限らなかった。

 この世には、沢山のパラレルワールドが存在し、例え些細な介入でも、未来は、大きく変更し得る可能性が有る。

 

「僕も、何とか出来るならしたい。だけど、僕らだけの力で、そんな大きな星の運命を何とか出来るとは思えない!」


 自分達にとって未知の星へ向かおうとするライリーシアの不安な感情が、テレパシーを遮断していても、痛いほどルウリーシアに伝わってきた。


 ルウリーシアの中に、不安が全く無いわけではない。


 それでも、その不安の何倍も新しい場所への期待の方が強かった。

 その彼女の強い期待の気持ちが、ライリーシアの気持ちをいっそう逆撫でしていた。

 そんな彼の心を受け止め、そのか細い両腕を彼の肩に回し、出来る限り力強く抱き締めるルウリーシア。


「私達だけじゃないわ! アクエリーシア星の出身者達は少ないかも知れないけど、他の星々からも、沢山のフロンティア志願者達がいるはずだから! みんなで団結したら、最悪の状況だけは避けられて、きっと良い方向へ近付けると思う!」


 頑ななライリーシアの心を開かせようとするルウリーシア。

 閉ざされていた彼の心も、ルウリーシアが寄り添った事で、ガードが緩み出した。


「色んな星の人々か……僕らは、ここに居る限り、生まれ変わって姿は変わっても、いつでも一緒だったのに。これからは、そうじゃない! 全く会える機会も無くなる場所で、生まれ変わるかも知れない! 地球に向かう宇宙船に乗船した時点から、離れ離れになるって噂も有る! ルウは、それでいいの?」

『ルウとは、いつまでも一緒だと思っていたのに!』


 ライリーシア発声と心の声が合わさってルウリーシアの胸に届き、強がっていたルウリーシアの涙腺が崩壊した。

 相手を想う感情が強いツインレイだけに、引き離される状況に際して、感傷的になるのはライリーシアだけではなく、ルウリーシアも同じ。

 ただ、それを未知への探求心で無理に覆い被せていただけだった。

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