蒼井ノ妖手記

1章

第1話 出会

「あれ?もしかして…君見えてる?」


それは桜が終わる月の綺麗な夜だった。




俺は物心ついた時から変なものが見える。俺たちとは明らかに気配が違うもの。俗に言う妖と呼ばれるものだと思う。動物のようでそうでなかったりととにかく変なもの。人とは違うもの。


最初の頃は両親によく変なものがいると知らせたり、怖くて泣きついていたりしていた。両親はそんな俺に困ったような顔で俺に接していた。


そして俺はこの変なものたちは俺にしか見えないのだと幼いながらに悟った。


そこからは誰にも悟られないように隠して隠して何も見ないように何もかも他の人と同じように過ごしていたというのに高校生活に浮かれて夜に散歩に出たのが仇となった。


「ねぇ、君見えてるよね。コレの事」


今、俺の目の前にいるのはほとんど人と変わらない、でも人間にしては魅入ってしまう、引き込まれそうなヤバい気配。言ってしまえばイケメン。そして1番やばいのはそいつの足に踏みつけられて蠢いている黒いナニカ…


「無視は悲しいな。あ、もしかしてコレのせい?君には少し刺激が強かったかな。ゴメンゴメン」


グシャッ


「ヒッ…」


黒いナニカはイケメンに虫でも殺すような軽さで踏み潰されてしまった。


「やっぱり見えてるよね。うーん、困ったな」


そう言いながらイケメンは俺に近づいてくる。逃げなければ行けない事は分かっているはずなのに足に重りがつけられてるみたいに動けない。恐怖のせいか呼吸が早くなる。だんだん息苦しくなって俺はとうとうしゃがみこんでしまった。苦しい。苦しい。息ができない。もうダメだ。そう思った時


「大丈夫だよ。こんな怖い事は寝たら忘れてしまうから安心して。だからゆっくり息をしようか」


イケメンは大丈夫、大丈夫と俺を落ち着かせるために何度も何度も俺の背中をさすってくれた。俺の呼吸が落ち着いた頃に


「もう大丈夫だね。お家に帰ってゆっくりお休み。そうすればさっきの事は忘れてしまうから、さぁ行きなさい。」


そこから先の事は曖昧だ。ただガムシャラに走って走って家まで帰って母に何か言われた気がするけれど自室に篭ってしまったから覚えていない。ただ見てはいけないもの見たという恐怖が忘れられないまま俺は眠りに落ちていった。








「早く起きなさい!朝ごはんができたわよ!」


「……はい」


母がカーテンを開いて行ったせいで燦々と輝くお日様とご対面した。昨日は夜遅かったからもう少し寝たかったのに…。そういえばどうして俺は昨日夜遅くに寝たんだっけ?


「早くしなさい!」


「今行くよ!」


これ以上遅くなって朝ごはんを食べ損ねると母の逆鱗に触れてしまう。バタバタしながらリビングに向かうと今日は珍しくテレビがついていた。


『いや〜凄いですね!俳優を初めて間もないのに新人俳優賞を受賞するなんて!おめでとうございます!』


『ありがとうございます。ファンの皆さんからの沢山の応援があったからこそ受賞する事ができたのです。本当にありがとうございます。まだまだ未熟ではありますがより一層頑張っていきます』


「見て見て、はるくん!今、お母さんイチオシの俳優さんなのよ〜朝から見れて嬉しいわ〜」





「……………は?」



画面越しに映っていたのは昨日の夜に散歩中に出会ったイケメンだった。








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