第284話 アンダー鯖
1月4日。
たっぷりと三ヶ日を満喫した異世界方面軍は、今年の配信活動を開始していた。この間はどこの支部も閉鎖されており、ダンジョンに潜ることが出来ない。故に普段はダンジョン配信をしている者達も、年末年始は雑談配信に興じる場合が多い。ある意味、探索者にとっての短いオフシーズンといえるだろう。その例に漏れず、異世界方面軍の配信活動もまた、他愛のない雑談配信からのスタートとなっていた。
「あけましておめでとうございますわー!」
:あけおめ!
:ことよろ!
:正月なのにジャージのヤツいね?
:振り袖着ろよコラァ!!
:釣った魚には餌を与えないタイプの令嬢か?
:そんなタイプあんのかよw
:初めて聞くタイプの令嬢やめろw
:いつまでも正月気分でいるんじゃねぇっていう団長からの警鐘よ
:流石だな。アーさんはいつも正しい
新年一発目となる異世界方面軍の配信だ。当然の様に飛び交う赤スパや、サブスク登録のお知らせ。リスナー達の興奮度も、心做しかいつもより高いような気がした。
「皆さんは年末年始、楽しく過ごされまして? もちろんわたくしもたっぷりと満喫させて頂きましたわ! こちらの世界で新年を迎える、初めての年ですもの!」
:おもちいっぱいたべた!
:キッズにお年玉上げた!
:初詣行きました!
:年越し配信見た後はアーカイブで昨年の復習してました
:書き初めで『アデ公』って描いたらめちゃ上手く書けた。こんど焼いてきます
:おう、仕事してたよ
:近くの騎士団員とオフ会しました!
:↑ なにそれ楽しそう
「あ、そうそう。わたくし達も初詣は行きましたわよ! 外に出るのを嫌がるミギーとオルガンを引っ張って、近くの神社でおみくじを引きましたわ! 全て大凶でしたわ!」
:草
:それは大草原不可避
:大凶なんてそうそう出ないだろww
:流石開拓地令嬢、運がとことん無ぇ
:ミギーとオルガンが嫌がるの解釈一致
:異世界方面軍のインドア担当二人
:アデ公に引きずられていくの見たかったわw
:素人はここで『もしかして振り袖か?』とか思うんだろうがな
:へっ、俺達は騙せないよ。どうせジャージだから
:君たちアデ公の解像度高すぎない?
「どうやら皆さんも、それぞれ楽しいお正月を過ごせたようですわね。大変結構ですわ! それでは改めて、今年も異世界方面軍をよろしくお願いいたしますわー!」
いつも通りに脱線し始めた団員たちを、アーデルハイトが綺麗にまとめ上げる。流石は騎士団長というべきか、このあたりの手管はすっかりお手の物だ。
「さて皆さん、もう協会からの告知はお読みになりまして?」
新年の挨拶もそこそこに、アーデルハイトは早速本題を切り出した。内容はもちろん、探索者協会が昨日発表した新制度についての話だ。活動内容や人格、功績に応じて探索者達を格付けする。階級によって協会から受けられる支援の質が上がり、様々な優待を受けられるようになる。そうして分かりやすい『目標』を設定することで探索者達の向上心を煽り、探索者全体のレベルアップを図るのが目的だという。
早い話が、治安と戦力アップを同時に狙った施策だということ。階級が上がれば、協会の保有する様々な魔物素材や、それらによって作られた装備を優先的に購入することが出来る。また売買の金額にも多少の色が付くし、施設の利用権なども融通が効くようになる。人格面でも評価されるため、素行の悪い者や問題行動の多い者、評判の悪いパーティー等はその時点で弾かれる。つまり真面目に頑張れば頑張るだけ、より良い扱いを受けられるようになる、という話である。
当たり前といえば当たり前のようにも聞こえるが、しかしこれまでにはなかった制度だ。一部の国では既に導入されてはいたシステムだが、国内ではこれが初の試みとなる。
協会が今になってこのシステムを導入したのには、いくつかの理由があった。昨年は、世界初のダンジョン制覇という偉業が日本国内で成し遂げられた。それによって日本は名実ともに、ダンジョン大国の名に恥じない国になったと言えるだろう。ただダンジョンの数が多いだけであったこれまでとは違い、他国よりも一歩先んじることが出来たのだ。しかしそれを成したのはポッと出の異世界人(自称)であり、予てより活動を行っていた生え抜きの探索者ではない。要するに協会は異世界方面軍に続く、ダンジョン制覇を成し得るパーティーを欲しているのだ。
無論、昨年に起こった『
:見たで!
:とりあえずの暫定ランク出てたね
:まぁ概ね予想通りの格付けではあったけども
:なんかこう、ラノベっぽくてワクワクした
:有名配信者が軒並みSかAだったね
:オッサンがAに入ってたの笑った
:ここの配信見てると忘れがちだけど、オッサン普通に有能だからなw
どうやら視聴者達も、既に公式発表を見ていたらしい。流石はダンジョン配信リスナーというべきか、こうした部分のアンテナは敏感な様子。S級やA級などといった、どこか創作世界じみた格付けに、彼らもまたきゃっきゃと大騒ぎしていた。
「どうやら皆さん、既に確認済みのご様子ですわね! 大変結構ですわ! あ、一応概要欄にページを張っておきますので、まだご覧になっていない方は一読する事をオススメいたしますわ」
そう言って画面の下部を両手で指差し、くいくいと動かして見せるアーデルハイト。これは録画ではなく配信なので、当然ながらテロップなどは出ていない。様式美というやつだろうか。
「それで、ですわ。皆さんもうお気づきかもしれませんが、実はその一覧には、わたくし達の名前が載っておりませんのよ」
:てっきりSSS級でもあるのかと思ったけどな
:俺はASS級かと思ってたよ。ケツでけぇし
:は? 乳もでかいが?
:個人でSは大和と
:ベッキーも活躍すごかったけど、あのチンピラ所属はアメリカだしな
:関係あるところでいうと、スズカとか
:ざっと面子見た感じ、C級もあれば上級探索者って感じの振分けだったな
:で、じゃあ結局団長はどこおるんよ?
協会が発表した一覧表には、個人での探索者等級と、パーティー単位での等級が記載されている。これはダンジョン探索という作業に必要な要素が、必ずしも戦闘能力のみというわけではないからだ。例えば
このように、今回発表されたランク分けには二つの評価基準があった。だが視聴者達が何度表を見返しても、アーデルハイトと異世界方面軍の名を見つけることは出来なかった。視聴者達が疑問に思うのも当然だ。少なくとも個人の戦闘能力で言えば、他に比肩する者などいない規格外だというのに。
「皆さん、一覧に目を奪われすぎでしてよ。ページの上の方────欄外をよく御覧くださいまし!」
成程確かに。どこかで聞いたような、ラノベさながらの新制度だ。アーデルハイトの言う通り、視聴者達は誰もが一覧に目を奪われていた。あの有名な探索者はどう評価されているのか。推しのパーティーはどうだったのか、などなど。大学受験の合格発表よろしく、ずらりと並んだ文字列ばかりに気を取られていた。
アーデルハイトの言葉を聞き、そこで初めて視聴者達が、各々で見ていた協会の公式ページを上部へとスクロールさせる。それと同時に、隣で機材を監視していた
「というわけでわたくし、協会公認の戦技教導官に任命されましてよー! あ、ちなみに協会所属というわけではありませんのよ。今風にいうなら────そう、アンダー鯖でしたっけ?」
「お嬢様、アンバサダーです」
画角外から飛んできたクリスのツッコミに、アーデルハイトは至極真面目な顔でこう答えた。まるで間違いなどなかったかのように。
「そうともいいますわね」
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