第243話 無事に終わって良かったッス
アーデルハイトが砂浜を爆破した、ちょうどその頃。
配信上では、かつてない程の盛り上がりを見せていた。
:うぉぉぉぉおお!!
:ADK! ADK!
:かっこええええ!
:爆音でワイの鼓膜ないなった
:異世界出身がガチだと確定した瞬間である
:前から確定してた定期
:過去イチでダサい技名に草
:全部ダサいんだよなぁ……
深夜の配信だと言うのに、同接数は過去最多の五万超。飛び交う投げ銭で真っ赤に染まったコメント欄。ひっきりなしに届くサブスク登録の通知。高速で流れてゆくコメントを目で追うことなど、最早不可能だった。そしてそれは現実世界でも同じこと。伊豆支部の食堂に集まった者達は皆、祭りのような騒ぎぶりであった。
「ククク……流石……流石です師匠! 私は師匠が勝つと信じてましたよ!」
「いやァ、本気の旦那もヤバかったなァ……アタシもいつか、あのレベルまで強くなれンのかねェ?」
「っていうか! 砂浜に大穴空いちゃってるじゃないですか! アレちゃんと元に戻るんですか!? 聖地なんてレベルじゃないですよ!?」
アーデルハイトの勝利を喜ぶ
「……コラだろ?」
「馬鹿か、どう見てもコラだろ。コラであってくれ」
「……現実です」
『
「いやー、なにはともあれ無事に終わって良かったッス」
実況を勤め上げた
「こりゃまた、色々と忙しくなりそうッスねぇ……」
今回の一件が広まれば、コラボや案件のオファーは更に増えることだろう。それ自体は喜ばしいことだが、諸々の調整を考えればただ喜ぶだけというわけにもいかない。そんな嬉しい悲鳴を抱えながら、
* * *
気絶したウーヴェの足を引きずり、ずりずりと階層入口付近まで移動させたあと。アーデルハイトが勝利の余韻に浸りつつ、クリスの治癒魔法を受けていた時のことだった。支部へとつながる扉が開き、中からオルガンが姿を現した。両手には回復薬の瓶をたっぷりと抱えており、頭には肉と毒島さんが乗っている。その重量のせいか足取りが怪しい。
「おつー」
「そちらもお疲れ様でしたわ。それにお肉と毒島さんも」
労うつもりがあるのか、ないのか。
間延びした声をアーデルハイト達へとかけつつ、オルガンはウーヴェの元へと向かう。そうして伸びているウーヴェの頭上で、瓶を大量に抱えていた両手を解放した。
「くらえ」
ウーヴェの顔面へと投下される回復薬の山。ウーヴェの額やら顎やらにぶつかった衝撃で瓶が割れ、中からはオルガン製の回復薬が溢れ出す。小瓶の破片があたりへと散らばり、その中心部には負傷し気絶した男の姿。殆ど何かの事件現場といった怪しい光景であった。
「……げほっ! がはっ! ゴボッ!? ゴボボッ!」
「何を言ってるのか分からんが」
「げほげほっ! ぐッ……殺す気か!」
「むしろ助けたが」
流石の創聖特製ポーションというべきか、効果は覿面であった。ものの数秒もしないうちにウーヴェは意識を取り戻し、雑な扱いにクレームを付けられる程度には回復していた。そうして上体を起こしたウーヴェは、顔を顰めながらも周囲を見渡す。
「……俺の負け、か」
「そう、わたくしが勝者。そしてあなたはめでたく異世界方面軍の中ボスですわ」
「……ふん、意味は分からんが好きにしろ」
「でもまぁ、あなたもなかなか悪くありませんでしたわ。わたくしには及びませんけれど」
「抜かせ。次こそ俺が勝つ」
ぶっきらぼうに言い放ち、ウーヴェがその場で立ち上がる。そうして自らの傷を軽く確かめた後、支部へと向かって歩き始めた。どうやらさっさと帰るつもりらしい。そんなウーヴェの背中へと、オルガンがぼそりと小さく声をかけた。
「ウーヴェ」
「……なんだ」
「それ、ひとついっせんまんえん」
「……」
「合計でいちおくごせんまん」
無情にも告げられたその金額は、一応は異世界友情価格であった。あちらの世界での
あちらの世界に居た頃であれば、なんだかんだと金銭には困っていなかったウーヴェ。魔物を片っ端から狩り続けていたおかげで、高級な売却素材が有り余っていたからだ。しかしそんなものを持ち込んでいる筈もなく。しがないファミレス店員の給料で払えるような金額ではなかった。
「……ツケで頼む」
「よかろ。期限は切らないでおいてやる」
そんな情けないウーヴェの頼みを、鷹揚に頷いて受け入れる。
意外と優しいオルガンであった。
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