第193話 胡散臭い輩というわけか
初めて見た実物の淫ピに、興奮を隠しきれないアーデルハイトと
尤も、
無論あちらの世界では、桃色の髪というのはそれなりに見る機会があった。だがそれはもっと自然な、所謂ストロベリーブロンドと呼ばれる髪色だったのだ。如何に異世界出身のアーデルハイトと謂えど、これほどの真っピンクは見たことがない。
そんな殆ど伝説上の生き物が目の前に現れたのだから、アーデルハイトの興奮も致し方ない事だろう。余談だが、聖女の髪も桃色だったりする。
「あ、紹介します。私の友達で淫乱ピンクの獅子堂
「ちょっと!? 誰が淫ピよ!!」
あまりにもあまりな
「まったく……まぁいいわ。私が探索者パーティ『淫乱ピンク』のリーダー、獅子堂
「えぇ……?」
「───違う!! 『茨の城』リーダーの獅子堂
とんでもない言い間違いをしてしまった
第一印象というものは、人間関係を築く上でとても重要な要素だ。一度決まってしまったカテゴライズは、そうそう覆りはしないものである。しかしそうとは知らない
そんな
「僕は弟の獅子堂
「わかりましたわ、獅子堂さん」
「はい、皆さん宜しくお願いします」
姉の
「私は逆に自分の名字が嫌いなの。だから
「わかりましたわ、淫ピー」
「ちょっと!? 淫ピーって何よ!?」
そうしてめでたく、それぞれの呼び方が決まったところで自己紹介は終わり。そしてただ一発カマしに来ただけならば、もうこれで用件は済んだ筈。知り合いと謂えど、早々にお引き取り願いたい。午後からの魔力修練が楽しみであった
そんな折、これまで沈黙を保っていたクリス───彼女にしては珍しく、アーデルハイトの淫ピ発言も咎めずに、だ───が、ふと何かに気付いた様子で
「獅子堂というと……もしや、
「知っていますの? クリス」
「知っていると言いますか……ほら、先程話していた、茨城支部への出資者の話。二人の姓が、同じでしたので。珍しい名前ですし、もしかしてと思いまして」
「そういえば先程、そのような話をしていましたわね。わたくしは聞いていませんでしたけど」
アーデルハイトがソーセージをパクつきながら、適当に聞き流していたクリスと
「そう! 何を隠そう、この私こそが! かの有名な獅子堂の娘よ!!」
「別に隠してないし。探索者界隈じゃ、もうみんな知ってる事だけど」
「折角威張ってるんだから、いちいち茶々を入れないでよ!!」
まるで夫婦漫才のような
獅子堂家とは、国内最大の医療グループと言われる『獅子堂グループ』の創設者である。獅子堂はダンジョン資源の医療転用に世界で初めて成功し、僅か二代で医療界のトップに上り詰めた。一般向けの医療機関経営のみならず、現在は探索者向けの薬品や医療用品の販売も行っている。そのシェア率は圧倒的で、協会で販売されているほぼ全ての医療用品が、獅子堂製のものである程だ。
国内のみならず、世界にもその名を轟かせる医療グループ。その総元締めが、獅子堂家というわけだ。
「ふぅん……教会の大神官のようなものですの?」
「つまり、胡散臭い輩というわけか」
「いえ、そういうわけでは……いや、まぁ、もうそれでいいです」
理解したのか、していないのか。アーデルハイトの挙げた例は、微妙に間違っているような気もするが───細かく説明するのも面倒だったし、何より二人とも、ひどくどうでもよさそうな顔をしていた。そうしてクリスは、二人への説明を打ち切ることにした。
「それで? 『茨の城』でしたわね? どうしてそんな大神官の娘が、ダンジョン探索なんて危険な真似をしていますの?」
正直に言えば、アーデルハイトにとっては酷くどうでもいい事だ。とはいえ、折角こうして出会ったというのに、『それではさようなら』では流石に印象が悪い。広いようで狭い探索者界隈だ、要らぬ敵は作るべきではないだろう。そう考えたアーデルハイトは、一応の話題を振ってみることにした。すると
「いい質問ね! よくぞ聞いてくれたわ! そう、私達には目的があるのよ。気高くて崇高な、私達にしか出来ない大きな大きな目的が!!」
「それは素晴らしいですわね」
「ダンジョン資源の医療転用によって、医療界の頂点に立った我が獅子堂家。そんな獅子堂でも、未だ成し遂げられていないことがあるわ! ここまで言えば分かってしまうかもしれないけど───そう、それは
「それは素晴らしいですわね」
「いかなる傷も、病も、たちどころに治してしまう奇跡の薬。人の身ではとても真似できない、まさに神の如き力だわ。でも回復薬は貴重で、とても高価。一般の人達ではとても手が出ない代物よ」
「それは素晴らしいですわね」
「もしも回復薬がもっと安価になれば、世界中の人々が救われるわ。だから私は、なんとしても回復薬を人工的に作る方法を見つけたい。そう、私達がダンジョンに挑む理由、それは───回復薬の量産化の為よ!!」
「それは素晴らしいで───あら?」
ひたすら適当に相槌を打っていた、そんなアーデルハイトの言葉が途切れる。そうしてクリスと
回復薬の価値が下がるということは、それによって稼ぎを得ていた者達、つまりは探索者全体へのダメージになりかねない。
アーデルハイトとクリス、そして
が、一筋縄ではいかない者が一人居た。
「ふむり───それならもう作った」
ぐるぐると納豆をかき混ぜながら、ごく当たり前のような声色で、顔色一つも変えること無く。オルガンは
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