第184話 色々な部分が大騒ぎ
今回の事件については、
しかし三人組の探索者は、まだ地上に戻ってきていないばかりか連絡すらつかない。応答がない、というよりも、そもそも通信自体が繋がらない状況だ。最後に目撃された時刻と現時刻の差。応答の有無と、そして何よりも救援に向かった異世界方面軍が彼等に遭遇しなかったこと。これを以て協会は三人を探索中の行方不明扱いとし、以降の捜索を行わない事に決めた。謂わば殆どKIA(Killed in action)寄りのMIA(Missing in action)だ。もし仮に彼等が見つかったところで、既に指名手配済みである以上はもう探索者には戻れない。
だが、三人組を除く全員が無事に生還したとはいえ、それで『はい、さようなら』というわけには当然いかない。怪我人の治療や救援依頼の報酬についてなど、協会側と探索者側で相談しなければならないことは山程あるのだから。
そんな事務的な打ち合わせを各パーティが行っていたところで、ダンジョンの入口扉が勢いよく開かれた。
「いやァー! 中々楽しかったなァ!」
そう言って笑いながら姿を見せたのは、赤みがかった金髪を後ろで結わえた粗暴な女。そしてむっつりと口を引き結んだ陰気な男であった。ダンジョンに入るなり早々に逸れ、アーデルハイト達がすっかり忘れていた二人組。レベッカとウーヴェであった。
「……そういえば忘れていましたわ」
「魔物を見るなり、早々に居なくなりましたからね」
「えぇ……ゴリラ過ぎるッスよ」
「ウーヴェは馬鹿。これ有名」
実際にその瞬間を見ていない
「いやァー、逸れて悪かったなァ姫さん!」
「本当ですわよ。貴女一体何をしに来ましたの?」
「いやホント、申し訳ねェとは思ってンだよ!」
「まぁ、別に構いませんけど……ところでベッキー、それはどうしましたの?」
やたらと目立つ巨大な剣。それは薄っすらと青く輝く、一見しただけでも見事な業物だった。なんとなくではあるが、以前にアーデルハイトが伊豆ダンジョンの最深部より持ち帰った大太刀と、どこか似たような雰囲気を感じる大剣だ。
「おっ、流石だなァ。やっぱ気付くか?」
「そんなこれ見よがしに持っていれば、誰だって気づきますわよ……」
というよりも、レベッカから放たれる『聞いてくれよ』オーラが凄かった。然しものアーデルハイトといえど、無視するのは少々気が引ける程度には。そうして仕方なく尋ねたところ、レベッカがニコニコと人懐こい笑顔を見せながら、突然アーデルハイトと肩を組みだした。そうして彼女の耳元で、周囲には聞こえないようにこう言った。
「簡単に説明するとだなァ……実は旦那が落とし穴にハマったんだが……」
「ぶふっ!!」
瞬間、アーデルハイトは堪えきれずに吹き出した。それを見たウーヴェから、じろりと視線での抗議が飛ぶ。どうやらライバルであるアーデルハイトに知られたくないと思う程度には、彼にも恥ずべき失敗だという自覚があったらしい。
「……おい」
「ださ」
「……」
しかし、続くオルガンからの追撃により、目を閉じて黙り込むウーヴェ。落とし穴にハマったのが事実である以上、もはや抗議しても勝ち目がないと判断したのだろう。
「そンでなァ、まぁその穴の先がボス部屋だったワケよ。ショートカットっつーの? そんな感じのヤツだ。どうよ、ラッキーだろ?」
「あら? あらあら?」
ここまで聞けば、その先の話は想像に難くない。何しろつい先日、アーデルハイト達も似たような武器を持ち帰って来たのだから。
「ということはつまり、その大剣は───もしかして制覇報酬ですの?」
「おうよ! これでアタシも、姫さんに続いてダンジョン制覇者の仲間入りってワケよ!」
「それは……ベッキー、中々やりますわね!!」
「おうよ! 任せろっつーの! ……つってもまぁ、旦那が居なきゃ無理だったからなァ……あんまでけェ声で自慢出来ねェってワケだ」
そう言って話を締め括り、アーデルハイトから離れるレベッカ。彼女もちゃんと活躍はしていたし、当然ながら嬉しいのは嬉しい。しかしウーヴェの力によるところも大きい為、あまり大っぴらに言うつもりはない、ということらしい。
こういった部分はレベッカの美点だ。適当な性格に見えて、実は彼女なりにちゃんと線を引いている。虎の威を借る狐というわけでもないが、自らの力によるものではない功績を、彼女は殊更に誇ったりはしない。力比べが好きな彼女らしい一面といえるだろう。
「そうは言っても、いずれはバレますわよ?」
「あァ、例の階層主が居なくなるってヤツなァ……ま、そんときはそんときだ。適当に誤魔化しとけば何とかなンだろ」
「雑な計画ですわね……」
「だろ? っと、そうそう。そんなことより姫さんに土産があンだよ。あー……どこに仕舞ったっけなァ」
アーデルハイトがそう言って呆れていると、レベッカが何かを思い出したかのように自らの衣服を漁りだした。元々露出の多めな服装の彼女だ。ポケットを叩いて何かを探している彼女の、色々な部分が大騒ぎしていた。
「……これか?」
そんな折、壁に背中を預けて黙っていたウーヴェが、レベッカへと何かを差し出した。
「お、そうそうこれこれ! 忘れてたぜ! 旦那に預けてたンだっけか。姫さん、確かコレ集めてンだろ?」
そう言ってレベッカがウーヴェから受け取り、そのままアーデルハイトへと渡してきた物。それは手のひら大の、何かしらの文様が刻まれた石版だった。
「あら? これはもしかして……」
「ほほう。よくやった駄犬。褒めてやろう」
オルガンが身を乗り出し、アーデルハイトの手に収まった石版をじっと眺める。そうしてきらきらと目を輝かせながら、ウーヴェを雑に労った。レベッカとウーヴェが土産と称して持ち戻ったのは、伊豆の最深部で発見した例の『手がかり』であった。
「
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