第88話 トレーニングですので(閑話
「んー……んー?」
いつものバルコニーで、アーデルハイトがうんうんと唸っていた。監督用の椅子に腰掛け、膝の上には肉を乗せ、小首を傾げて何かを思案している様子だ。
彼女は現在、買い出しに出かけたクリスに代わって、
「師匠、どうしたんですか?」
そんなアーデルハイトの様子を不思議に思ったのか、
アーデルハイトが頭を悩ませていたのは、ウーヴェから聞き出した、彼がこちらにやって来た
だが、それを手引きしたのがあの
何か特殊な魔法なのか、それとも神器によるものなのか。崖から突き落とすのがトリガーなのか、それともただ対象を弱らせる必要があるのか。人を送り込んで何をしようとしているのか、そうすることで聖女に一体何のメリットがあるのか。
そんな何一つ分からない状況の中で、ウーヴェだけが合意の元で送り込まれてきたのだ。これによって仮説のいくつかは消滅したが、犯人が聖女であることだけは確定した。より詳しい話を聞きたいところではあったが、しかし、ウーヴェは聖女から仔細を聞くこともなく、殆ど二つ返事でこちらの世界へと飛ばされてきたらしい。そんな彼に聞いたところで、これ以上は何も分からないだろう。
結局のところただ謎が増しただけであり、情報不足には変わりなかった。
「んー……いえ、なんでもありませんわ」
「そうですか?」
「よくよく考えれば、現時点で悩んでも仕方のないことでしたわ」
アーデルハイトは悩むことをすっぱりと止めて、思考を切り替えることにした。あちらの世界の状況も気にはなるが、こちらへ来た方法も、そしてあちらへ戻る手段も分からない。つまりは頭を悩ませたところで、今より話が進むことはないということだ。故に、今はこの世界で出来ることをやるしかないのだ。
「ところで貴女、最近は随分とうちに入り浸ってますわね」
「それはそうですよ!私は師匠の弟子ですからね!!」
そう、
「そう言う割に、先日は一日中肉と遊んでいるだけでしたけど?」
「あれはトレーニングですので!!」
アーデルハイトがそう尋ねてみれば、自信満々かつ食い気味に
「まぁ、肉も楽しそうなので構いませんけれど」
「それより師匠!
「どう───ということもないですわ。ただ会って話して、ゴリラにゴリラをぶつけただけですわ」
「えっ!なんですかその面白そうな響きは!!」
怪しげな説明に
ウーヴェの件に関しては別に隠しているわけでもないため、アーデルハイトが語って聞かせてやろうと思った、その時だった。
「さっきからうるせぇんスけどぉー!?集中出来ねーんスけどぉ!?」
アーデルハイトと
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