第44話 最ッ悪よぉ!!
アーデルハイトが何処とも知れぬ場所でチンピラを狩り続けていた頃。
一方の
同時視聴を行っている視聴者達からはあちら側の近況も定期的に報告されるのだ。彼等の話によれば、どうやらアーデルハイトはトラップに引っかかったことなどまるで気にする様子もなく、未踏破地域と思われる場所で蜥蜴人を千切っては投げ千切っては投げしているらしい。
そもそも彼女の実力は既に
しかし合流は果たさねばならない。
今回のコラボは
未踏破地域に飛ばされていることだけは分かっているため、何処かにその地域へと繋がる道が無いかと探している訳だ。
「もう目ぼしい場所は全部見たよねー?」
「少なくとも正規ルート沿いに見落としはないと思うわよぉ?」
「まぁ、そない簡単に見つかるようやったらとっくにうちらが発見してるわな」
「とはいえルートを外れるのは不味い」
目の届く範囲内で散開し、声を掛け合って辺りを捜索する
そして何より、20階層を越えた辺りから徐々に
そういった様々な理由から、
そうして手詰まりとなった彼女達は、視聴者からの反応を待ちつつ階層主の部屋前で休息をとることにした。
「いやー!やっぱコラボして正解だったね!まさかこんな事になるなんてねー」
「攻略どころや無いけどな。ま、退屈せぇへんってとこは同意するわ」
「仮に今回は失敗だとしても、私としては得るものが大きかったわねぇ」
「そう。あの戦いをこの眼で見られたことはいい経験になった」
手頃な段差や岩の上に腰掛け、今回のコラボ配信について口々に感想を述べる
階層主の居る部屋の周辺は、不思議な事に魔物が現れない。これは京都のみならずどのダンジョンでも同じことであり、恐らくは縄張り的なものが魔物達にも存在するのではないかと言われている。つまり階層主直前は一種の空白地帯で、探索者達が周囲を気にすること無く体を休めることの出来る唯一の場所といっていい。上級探索者である彼女達はそれを理解しているからこそ、こうして呑気に雑談が出来るという訳だ。
しかし警戒を解いているとはいえ、ただダラダラと座っている訳では決して無い。
探索者にとって、休める時に休むのは立派な仕事である。そうしなければいざという時に戦えないし、何よりも怪我をする確率が跳ね上がる。
アーデルハイトのゴリ押しを見ているとすっかり忘れそうになるが、ダンジョン探索とはハイリスク・ハイリターンだ。仮に大きな戦果を挙げたとしても、無茶をして死んでしまえば何も得られない。故に探索者達は常に安全を第一に考えなければならないのだ。気が逸って無茶をするか、あるいは自分達でも気づかぬ内に体力を消耗してしまう。それが新人の命を落とす最たる理由である。
「ミストレス戦はマジで永久保存しとこ!あ、切り抜きお願いね!何回でも笑えるよアレ!」
「笑い事やあらへん。何をどうやったらあそこまでになんねん」
「確かに彼女の身体能力は異常。でも身体能力だけじゃない」
「跳躍力もそうだけど、バランス感覚が凄かったわぁ。空中での姿勢制御もそうだし、何より蹴りが鋭すぎるわ。力の伝達に一切の無駄がない。あれは間違いなく『技術』よぉ」
「……戻ったら稽古付けてくれないかしらねぇ?」
「あ、いいねそれ!それで私達全員がパワーアップしたら25階層くらい余裕かも!」
「ある程度の身体能力が前提であることも忘れてはいけない」
「確かに、姫さんから学べることは多そうや─────ん?」
そうしてダンジョンから戻ったあとの事を相談していた時だった。スズカが不意に自らの言葉を途中で切った。直後に素早く立ち上がり、眉を潜めながら周囲を見回し始める。そんな彼女の表情は剣呑で、先程まで雑談していたとは思えないほどの緊張感を持っていた。
「え、何々?どしたん?」
「────何か……嫌な感じするで。リアは?」
「あたしは何も────いえ、言われてみれば確かに何か感じる、かも……敵?でも……」
「ここは階層主前。魔物はやってこない筈────っ!!」
どうやら
採取出来る鉱物の外見と分布や魔物の種類と名前、その特徴や生態、そして弱点。正しい道順や脇道でさえも、ある程度であれば彼女は地図を見ずとも答えられる程度に把握している。そんな彼女の脳裏には現在、ある魔物の名前がぐるぐると泳いでいる。
それはダンジョン内に生息する魔物の中でもとびきり異質で、明らかに他とは違った特徴を持つ魔物。ダンジョンが現れてから数十年、世界中の至るところで確認されつつも、未だ誰も倒すことが出来ていない厄介な存在。それは神出鬼没で出現条件も不明、気がついた時には眼の前に出現している希薄な存在感。そうかと思えば攻撃の際に漏れ出る殺意は凄まじく、異常な程に好戦的でありながらもこちらからの攻撃は一切受け付けない、卑怯としか言いようのない特性を持つ。探索者協会から発表されている対抗策は他のフロアへと『逃げる』、ただその一点のみ。ダンジョン内に於いて、ある意味階層主よりも余程危険な存在。その名は────
「───
呟いた
全ての探索者達が恐れる最悪の魔物。現在確認されている全ての魔物の中で、唯一の『霊体型』と呼ばれる存在。階層を進むか戻るか、或いはパーティーを全滅させるまでしつこく付き纏う、正しくダンジョンの死神。それが、じっと
「────ッ!!24階層まで退くで!!
「了解っ!
「了解」
「ああもぅ!最ッ悪よぉ!!」
スズカが素早く指示を飛ばし、四人が背を向け駆け出すと同時。死神もまた彼女達を追うようにゆっくりと動き始める。アーデルハイトが爬虫類系ヤンキー共と遊んでいた頃、こうして
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