日常と非日常の狭間
(描写)次の日の朝。オルバは病院のベッドで目を覚ました。傍らにはオルバの手を握ったままベッドに突っ伏しているヴェータ、安堵の表情を浮かべるルシアと、恐らくは自分よりも年上と思われる女性が居た。
女性はオルバを見ると慌てて声を発した。
(冬海)「ルシアさん!」
(ルシア)「ああ。やっと起きたか……生きててくれて良かったよ、本当に」
(オルバ)「ルシアさん、それにヴェータも」
(描写)そう呟いた直後、オルバは一気に上体を起こす。
(オルバ)「そうだ、俺、帰りのバスで」
(描写)記憶が鮮明になってきたのか、オルバは震える手でヴェータの手を握り返した。
(ルシア)「事故のことは分かるか、オルバ。」
(オルバ)「ぁ、ああ」
(ルシア)「多くの乗客が死傷していた規模の事故だったにも関わらず、〝お前は無傷だった〟。これには、偶然の一言では済まされない理由がある」
(オルバ)「何だよ、その理由ってのは」
(描写)ルシアは一度言葉を切り、静かに息をついた。
(ルシア)「話せば長くなる。それに、お前にとっては聞きたくない話にもなるだろう。……構わんか」
(オルバ)「……いいぜ。ルシアさんがそこまで言うンだ、むしろ聞きたくなってきた」
(描写)口調や表情こそ朗らかだが、オルバの眼は真っ直ぐにルシアを見据えていた。ルシアは一度頷き、口を開いた。
(ルシア)「解った。まず『レネゲイドウィルス』の事から話そう。こいつは20年前に輸送機が撃墜されたことによって世界中にバラ撒かれた、とされている。研究機関がどうこうという訳ではなく、中東のとある遺跡から発見された発掘品に、このウィルスが含まれていたらしい」
「このウィルスに適合、覚醒した者を『オーヴァード』と呼ぶ。良く言えば超人、悪く言えば化物。ただの人間では対抗も出来んような超能力を得た存在だ。……オルバ、お前は発症者だ。オーヴァードになったのだ」
(描写)未知のウィルスに適合、覚醒。超能力を得た。オーヴァードになった。──自分は、化物に成った。その言葉に、ヴェータの手を握る手に力が籠もる。
だが、ルシアは何かを堪えるように口を引き結んでいた。
(ルシア)「私はそれを嘆けば良いのか、喜べば良いのか分からん。お前が覚醒したのは、あの事故がきっかけだろう。覚醒しなければ多くの乗客のように帰らぬ人となっていたかもしれない。だがオーヴァードとなったなら、以前のような日常には戻れない」
(冬海)「……」
(オルバ)「それなら俺は喜んで欲しいぜ。命あっての物種ッてやつさ。生きてなきゃ、こうして話すコトも、日常を過ごすコトも出来ない。そうだろ? ルシアさん」
(ルシア)「……ふ、それもそうだな。」
(描写)ルシアを安心させようとしてか、にっといつも通りの笑顔を見せるオルバ。しかし、事故と言う単語を呟き、はっと目を見開いた。
(オルバ)「待ってくれ、綾瀬さんは!?」
(ルシア)「冬海さん、それについての説明を頼むよ」
(冬海)「了解しました!」
(描写)冬海と呼ばれた女性はオルバに向き合い、簡潔な自己紹介を述べてから綾瀬に関しての情報を伝える。
(冬海)「オルバさんのご学友、綾瀬真花さんはこの病院に搬送され、治療を受けています! 命に別条はありませんので、ご安心下さい! ですがオーヴァードの存在については秘匿しなければならないため、事故については記憶処理をしています!」
(オルバ)「良かった、無事だったのか。って、記憶処理?」
(冬海)「はい、『一見何の変哲もない人々が、いつ超常の力を行使するか分からない』となれば世界中がパニックに陥ってしまいます! そのため、一般の方がオーヴァードに関する情報を持たないようにしているのです! 今回の件では、〝事故には関わっておらず、別のバスで下校した〟というようにしました! 一般生活に戻っていただくためです!」
(オルバ)「確かに、誰かがとんでもない力を使うかもしれない、なんて意識があったら生活どころじゃないですね」
(冬海)「迅速なご理解に感謝いたします!」
(オルバ)「こちらこそ、綾瀬さんのコトが知れて良かったです」
(ルシア)「助かったよ」
(冬海)「いえ、仕事ですので!」
(描写)ビシッ! と礼をする冬海に頭を下げ、オルバはルシアに向き直る。
(ルシア)「そして我々こと『UGN(ユニバーサル・ガーディアンズ・ネットワーク)』と『FH(ファルスハーツ)』についても軽く触れておくか。UGNはオーヴァードの人権を保護し、一般社会での生活を支援する組織だとでも言っておく。お前がオーヴァードである秘密を守り、レネゲイドウィルスの力を乱用する集団と戦うための組織と思ってくれ」
(描写)オルバはこくりと頷く。
(ルシア)「今回の事件は、オーヴァードの力を悪用するFHという集団が引き起こしたものだ。奴等はその力で自分の為に振るい、社会を混乱に陥れようとしている」
「オルバ。無理を承知でお前に訊く。──その力を以て、UGNに協力してはくれないか」
(描写)ルシアの懇願は、オルバの古い記憶を呼び起こした。片手で数えられる程しか目にしたことのない、孤独を強い意志で押し殺した時の眼差しと同じものだった。苦しみが滲む面持ちのルシアに、オルバは再度頷いた。
頷いて顔を上げれば、パチンと星が飛びそうなウィンクも付けて。
(オルバ)「勿論、俺で良ければ喜んで働くぜ! 人の役に立てるんならそれでいい。俺ももう二十歳だし、こんなトコで定職に就けるッてのはありがたいね」
(描写)いやー人生なにがあるか分かんねーモンだな、と続けてあっけらかんと笑うオルバに面食らうも、ルシアは困ったような微笑みを返す。
(オルバ)「……それにさ? ヴェータとルシアさんがたまに素っ気無かったのはこのコト隠してたからかなーッて、話聞いた今なら思えるんだ。あと、ちっとばかし心細かった……から、それが無くなンなら願ったり叶ったりだな」
(描写)ルシアはそれを聞くとおもむろに手を伸ばし、くしゃりとオルバの頭を撫でた。
(ルシア)「すまない。それと、ありがとう」
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
(ルシア)「詳しい話はまた後で話そう。何か分からないことがあれば、私か冬海さんに聞いてくれ」
(オルバ)「分かった。あ、そういやこの後ってどうなるんだ? 退院ってことでいいのか?」
(ルシア)「カルテを見たところ外傷や内傷は無いとの報告だった。気持ちが落ち着いたら帰ろうか」
(オルバ)「了解。……にしてもコイツ起きねーな、珍しい」
(冬海)「それなんですが、事故に遭ったオルバさんを発見したのはヴェータさんだったと処理班から聞きました。顔は夜でも分かるくらいに青ざめていたそうです」
(ルシア)「お前があんな目に遭って不安な中、待ち続けて寝てしまったのだろう。起きるまで傍に居てやるんだな」
(オルバ)「当然」
(描写)その後、オルバが冬海に対して自己紹介や質問をしたり、三人で雑談をしたりして、四人はルシアの車で一度N市支部に戻った。支部で冬海と別れてから、三人の乗った車は家への道を走るのだった。
オルバ
侵蝕率1D10上昇
ルシア
侵蝕率1D10上昇
ヴェータは眠っていたためノーカン
冬海は一般人なので計算しない
オルバ 登場の侵蝕率 1D10→10
ルシア 登場侵蝕率 1D10→4
オルバ→早蕨冬海にロイス「UGNの職員 P:好奇心/N:猜疑心」を取得
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