小鳥の居場所

第十一話 過保護軍団

 新しい家の住み心地はかなり良く、環境の移り変わりに弱い僕でも熟睡できた。コンさんやゴンさんも、隣でぐっすり眠っている。あれ、カンさんは?


 とりあえず身支度をしてから家を出て、辺りを見てみる。カンさんはいなかった。家の中も探したけど、いなかった。


「朝から何してんだ。」


「カンさんがいないんです。」


「あぁ、あいつならちょっと前に出掛けたぞ。何でかは知らんが。」


「そうですか。僕も出掛けても良いですか、ちょっとだけです。」


「まぁ…良いんじゃない?危ないからちょっとだけな。」


「ありがとうございます!」


そういって飛び出すと、後ろから何かあったら連絡しろよ!と声がした。




「やっと過保護から卒業したネ。」


「うるせぇ、起きてたのかよ。」


「心配だからこっそり見ておくヨ。」


「兄貴の方が過保護じゃねぇかよ。」




 カンさんがいる場所は大体分かる気がした。それはカンさんの家だ。カンさんはきっとそこにいる。


 しかしその予想は外れた。まだ墨の匂いがする跡形もないカンさんの家にその当主はおらず、その代わり謎の寂しさが残った。すると不思議なことに上から笑い声がする。驚いてみてみると、木のはの隙間から、イヌイさんの着物が見えた。


「イヌイさん!」


「…?」


イヌイさんが此方を探す様に顔を覗かせたから、見つけやすいように手を振ると、僕も木の上に乗せてくれた。そのとき初めて、イヌイさんの隣にカンさんがいることに気付いた。


「カンさん!」


「どうも。お先してました。」


確かカンさんは僕が以前イヌイさんの話題を持ちかけたときに、知り合いだとは言わず何ならコンさんらの見方をしていたはずだけど。


「因みに僕はイヌイさんについて知らないとも知っているとも言ってはいませんよ。」


八卦の力の中にエスパーってあったっけ。まぁそんなことはどうでも良くって。


「何でカンさんが此処にいるんですか。」


「カン君とは友達でね。しばらくの間お互い連絡がとれなかったんだよ。」


「照葉君のおかげで会うことができました。ありがとうございます。」


「そうだったんですね。良かったじゃないですか。で、何の話を?」


「…何だっけ。」


「え?」


「何を話してましたっけ。」


「えぇ、忘れちゃったんですか。聞きたかったのに。」


「ごめんねぇ、忘れっぽくてさ。」


「えぇ。」


「そういえば君、照葉って言うんだね。」


「はい、草薙照葉です。」


「言い名前だね。」


「ありがとうございます。向こうでは何か女みたいだーなんてからかわれていたんですけど、僕はこの名前を気に入っているんです。可愛いさもあるけど、かっこ良くないですか?」


「確かにな、可愛いけど、」


「かっこいいですね。」


実際、向こうでは僕はいじられキャラだった。身体が弱いからっていうのもあるけど、家が貧しいからだとか理由は色々あった。それでも、やっぱり名前をいじられるのだけは嫌だった。亡き母や父が付けてくれたこの名前は、大切にしたかった。名字すら変えたくない。それは僕の何としても譲れない所だ。


「そろそろ行くよ。じゃあね。少年、カン。」


あ、名前じゃないんだ。そう思いながら手を振り返す。


「また会いましょう。」


カンさんと一緒に僕も立ち上がると、イヌイさんが地面へ降ろしてくれて、宙を伝いながら何処かへ行ってしまった。


 僕はカンさんと一緒にコンさんらの家に帰る。家に着くと、そこにはゴンさんしかいなかった。


「カンさんを探しに家を出たら今度はコンさんがいないんですか。」


「あれ、会わなかったのか?」


「コン君と?会いませんでしたよ。」


「あれ、兄貴が迷子な訳ないしなぁ。まぁそのうち帰ってくるだろ。」


「そうですね、先に昼ご飯を食べておきましょうか。大丈夫です。コン君だって、一人の時間があるでしょう。」


確かにそうだけど、もし僕を探していて、すれ違いで僕が帰ってきてしまったのなら申し訳ない。僕は玄関の外をちらちら気にしながらお昼をすませ、ゴンさんらとボール蹴りをし、綾取りなどして遊んでいた。これはどれも僕が教えた遊びで、今ではもう馴染んでいる。僕が発明した訳ではないけど、そんな遊びがあるんだ、と喜ばれたときは凄く嬉しかった。


 しばらくするとゴンさんの言う通りコンさんが帰ってきた。


「コンさん!何処に行ってたんですか。」


「ちょっと、ネ。」


「ご飯できてますよ。」


「了解~ありがとウ。でも今日はいいヨ。もう寝るカラ。」


「もう寝るって、まだ昼ですよ!?」


「兄貴、大丈夫か?」


一体コンさんに何があったんだろう。凄く疲れていてご飯を食べる気力すらない。元々ご飯は食べなくても良いんだから、人間みたいに健康上無理矢理食べろとはならないけど、それでも何か食べた方がいいんじゃないかって思えるくらいひょろひょろだ。


「本当に、大丈夫だカラ。」


そういってパタンとベットに倒れてしまった。何時も明るいコンさんだからこそ、弱っているのを見ると余計悲しくなる。


「こんなコンさん、初めて見た…。」


さっきまでの遊びを続けようとしても、どうも気が進まない為、いっそ僕も寝ることにした。ゴンさんとカンさんはまだ仕事があるらしいけど、その間コンさんの隣で見守っておくと伝える。だってコンさんが僕にそうしてくれたから。此処に来た初めの日、こうやって僕を安心させてくれたから。


 本当は起きておくつもりだったけれど、何時の間にか寝てしまったようだ。昼から寝たといえど最近疲れが溜まっている所為か、ガッツリ朝まで寝てしまった。僕が身体を起こすと、


「ンーーーーっふっかーーツ!!!!」


「ぎゃあっ!?」


「何だ!何があった!?」


「コンさんが、復活したって…」


「大袈裟ですよ。朝から煩いの何の。昨日の心配を返してください。」


「あれ、心配してくれたんダ?」


「ほんとに返してくれ。」


「本当ですよ。」


「あらラ、ごめんネェ。」


本当に心臓に悪い。本当に。現状で一番死にやすいのは僕だけど、何時も危機感を感じている所為か神の使いでもころっと逝っちゃうんじゃないかと思えてきてしまう。


「じゃあ罰として朝御飯集めてきてください。」


「罰?僕何にもしてないんだケド。」


「心配料。」


「そんな慰謝料みたいに言わないでくれル?」


「何としても行って貰いますから。」


「何としてもな。」


こういう時のカンさんとゴンさんの気の合いようとそのスパルタ精神ははどうやって鍛えられたんだろう。彼らのそれにすっかり慣れれしまってはいけないんだろうなと思いながら会話を楽しませて貰っている。


「一応僕病み上がりなんだケド!?」


「関係ありません。」


「関係ない。」


「さっきからカン君はまだしもゴンは何なの!誰なの!」


「貴方の弟ですけど。」


「そんなこと分かってるヨーエー、一人はヤダー寂しイー。」


こりゃ本当に行かされるパターンだなと認識した僕は、二人に代わってついていってあげる事にした。


「僕ついていきましょうか?」


「本当!?」


「駄目ですよ甘やかしちゃ。」


「そうだぞ。」


「でもついていきます。心配なので。」


「君神より神ーサイコー。」


本当は僕と同じくらい、いやそれ以上にカンさんらがコンさんの事を心配していたのは知っている。照れ隠しのように起こっているのかもしれないけど、きっと本人達も気付いているだろう。その証拠に、ちゃんと見送りに来てくれている。行ってきますと言って外に出ると、気持ちの良い風が服の間を通り抜けた。

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