無表情の母
うらの陽子
第1話 報告
昼間だというのに暗い室内で雨音を聞きながらアルバムを見ていた。
20年も前の小学校の入学式。
そこには少し緊張した顔の幼い私と無表情の母。
母はいつも無表情だったと思い出す。
昨日、私の結婚の話をすると母は目を見開いて驚いていた。
あまり表情を見せる人ではないけど、喜んでくれると思った。
しかし、母は真顔で「そう」と一言呟いた後、「いつ相手の人を連れて来るの?」と私に目を向けただけだった。
母の眉間に皺が寄っていた。予想を裏切り母は私の結婚にいい顔をしなかった。
父は母の隣で頷いていて、「良かったな」と一言声をかけてくれた。それがせめてもの救い。
その後の夕食は私にとって地獄の時間だった。
いつものように食事の準備を手伝い、そのうちに妹が帰ってきて、4人で食事をする。
母の声が食卓に響く。
「それで、どんな人なの」
唐突だった。
妹の春香が不思議な顔で私を見る。
まだ、妹に言ってなかったからもう一度報告する。
「今度、私、結婚することにしたの」
妹が目を皿の様にして驚いた。その顔は母にそっくりだ。
違ったのはその後の表情。
満面の笑みで喜んでくれる。
「お姉ちゃん、おめでとう!」
「うん」
母の冷静な声がする。
「それで、どんな人なの?」
私は彼の説明をする。
「大学時代に出会った人で、もう少ししたら30になるし、その前に子供が欲しいねって言われて、、、子供好きな優しい人だよ」
母の眉間に皺が寄った。
私は何を間違えたのだろうか?
父がのんびりした声を出す。
「いいじゃないか、子供好きって。長いことお付き合いした後に彼の方からプロポーズしたってことだろう。夏海は美人だし、料理上手だし、相手の男は幸せ者だ」
そこで一旦言葉を止めて一息つくと寂しそうに笑いながら後を続けた。
「少し寂しくなるがな」
春香が慌てて明るく話始める。
「お姉ちゃんがお嫁に行っても私がいるし、お父さん、寂しくないよ!」
父は少し微笑んで、「そうだな」と頷いた。
私は春香に小さな声で「ありがとう」と囁く。
母は何も言わない。
それから私たちはついていたテレビを見ながら静かに食事を終えた。
その日、久しぶりに母が体調が悪いと言って食後の片付けを私たち姉妹に預けて先に寝てしまった。
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