終幕

ずっと一緒 *鞠*

 一週間前、和泉ちゃんをライブ会場で見たとき衝撃を受けた。


 なんとかライブをこなした私を褒めてほしい。


 愛する人が知らぬ間に死んで、ショックを受けない人がいるだろうか。


 死んだと一目でわかったのは、昔からそういう体質だったから。


 あまりいい思い出はないが、このときばかりは幽霊が視えてよかったと思った。


 その後彼女は握手会をこなす私の後ろに立ったり、横顔をじっと見つめたり。


 死んだことにショックを受けているのかと思いきや、滅茶苦茶独り言を言っていて笑いを堪えるのに必死だった。


 全身黒の男が現れるまでは。


 アイツ、私のことを好きなんだか嫌いなんだか。


 握手会に来てくれることは嬉しいけど、生理的に無理。


 一度嫌いになった人はとことん嫌いになるタイプだからさ。


 出禁にしてほしいレベル。


 ファンが少ないから無理なんだけども。


 一人を失っただけでも、アイドル生命が終わりに近づく。


 心の中でため息をついてさっさと会場を出る。


 私がいない方が、あの二人は悪口が言いやすいだろうしね。


 これでも最初は恵美や純と仲良くやろうとしたさ。


 無駄だったけどね。


 一人だけ仕事が多いことが不仲の原因。


 解決するには私が我慢しなくちゃいけない。


 なんで私が?


 なにも悪いことをしていないのに。


 そんなことを考えていたからか。


 気づいたときには強い力で背中を押され、車道に飛び出しかけていた。


 和泉ちゃんが引っ張ってくれていなかったら死んでいた。


 すぐにありがとうと伝えたい。


 でも、彼女は幽霊ライフをエンジョイしている。


 本当は私が和泉ちゃんを認識していると知ったら。


 消えてしまうかもしれない。


 どこかへ。


 だから私は彼女が視えないように振舞った。


 その間にどうやって彼女に想いを伝えるか。


 必死に考えた。


 下手に「好き」と伝えたら、彼女のことだから嬉しすぎてあの世へ旅立ってしまう可能性がある。


 気をつけなければ。


 上手い答えが出せぬまま一週間が過ぎた。


 和泉ちゃんは節度をもって私に憑りついてくれている。


 お風呂も着替えも覗かない。


 更に彼女のことが好きになった。


 そしてライブの帰り。


 あのねっとりキモ男が後をつけていることに気がついた。


 面倒だ。


 早足になればアイツも合わせてくる。


 立ち止まっても同じ。


 いよいよ追いつかれる。


 恐怖で背中を冷たい汗が伝ったとき、


「あれ」


 アイツが消えた。


 小さな悲鳴が聞こえたような気がして路地を覗けば、和泉ちゃんとヤバそうな幽霊が一体。


 和泉ちゃんは幽霊女にねっとりキモ男を引き渡して、普通に来た道を戻って来た。


 私は慌てて家に向かって走る。


 その間ずっと笑っていた。


 初めて会ったであろう自分以外の幽霊と普通に会話しちゃうなんて。


 面白すぎる!


 最高だよ。


 なんとか彼女よりも先に帰宅し、身なりを整える。


 よしっ、ストーカーを撃退してくれたことだし。


 今日伝えることにしよう。


 ありったけの愛情を。


 きっと和泉ちゃんは受け止めてくれる。


 私と一緒にいてくれる。


 多分私たちは、私が死んでからもずっと一緒にいる。


 誰が邪魔をしても。


 悪霊になってでも、私は絶対に彼女の手を離さない。


 にゅっと玄関を通り抜けて来た和泉ちゃん。


「おかえり」


 さぁ、話し合いを始めよう。


終わり

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