推しへの愛が強すぎて、憑りついちゃいました

佐久間清美

本編

開幕

推しに会いに!

 華の金曜日!


 これってもしかして死語?


 まぁ、いっか。


 駅前はこれから飲みに行く人、羽目を外して痛い目をみるであろう若者たちで溢れている。


 そんな中を私は早足に進む。


 命よりも大切な推しの定期ライブに遅れそうなの。


 帰って身なりを整えようと思っていたのに。


 帰ろうとした私に仕事を押しつけてきた上司。


 ライブに間に合わなかったら一生恨むぞ。


 じっとりと汗がにじむ。


 明日が休みで良かった。


 絶対スーツ汗臭いもん。


 一応予備はあるけどさ。


 やっすいやつだから、あんまり着たくないんだよね。


 そんなことは置いといて。


 今週も仕事を頑張れたのは、今日のため!


 推しの西田まり――鞠っちに会うため!


 7人組のアイドルグループ『SEVEN COLLARS』のリーダーで、最年長。


 他の子たちが可愛い路線なのに対して、鞠っちはカッコイイ路線。


 王子様キャラってやつかな。


 可愛いとは真逆のスタイルを貫く彼女が大好きなんだあ。


 あぁ、早く会いたい!


 胸の高鳴りが抑えきれず、小走りで推しの元へと向かう。


 これがまずかったのかな。


 周りが見えていなかった。


 走り出した途端、悲鳴が聞こえ……。


 言葉を発することはできなかった。


 自分の身になにが起きたのかわからなかった。


 ただ頭に強すぎる衝撃を感じて、気づけば道路に横たわっていた。


 視界の端に映る赤黒い血。


 そして、私の意識はテレビの電源を切るように、プツンと消えた。

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