☆悪魔召喚☆
ついに悪魔が目を覚ます
真っ白な部屋の床には、赤い色の魔方陣が描かれ、何本ものろうそくが灯っている
「とうとう悪魔を召喚する時が来た」
青年はそう言った後、呪文のようなものを唱え始めた
すると、魔方陣の中心から煙が出たと思うと、一瞬にして悪魔が現れる
「永き眠りから、我を呼び起こしたのは、貴様か」
腹の底まで響くような声だ
「汝は我と契約し、魂を捧げる覚悟は出来ているのか?」
「はい、勿論出来ています・・・」
少しの沈黙の後、青年が話し出す
「ちょっと恐れおおいのですが、ひとつだけ聞かせて下さい」
「よし、許そう」
「私が知っている悪魔というのは、頭が山羊みたいで大きな黒い羽が付いていて・・・そんな感じなんですが・・・」
「貴様は何が言いたいのだ?」
「いや、あなた様はどう見ても白い仔犬にしか見えないので、しかも可愛いが付く仔犬です」
「何を言っておる、悪魔のイメージは貴様ら人間が勝手に想像してるだけだろう
力さえ持っていれば、外見なんて何の意味もない」
「まあ、そうですが・・・」
少し納得のいかない感じだったが、百歩譲って良しとしよう
今回悪魔を呼び出したのは、願いを叶えて貰うために呼んだのだから
青年が悪魔に聞く
「私の命と引き換えに、何でも願いを叶えてくれるんですよね?」
「何でも願いを叶えてやるが、お前の命は要らん
お前の魂が欲しいのだ
命とはお前が生きている間にしか存在しないものであろう
魂はお前が生きていようと死んでいようと関係ない」
「なるほど・・・
でも、魂が無くなると死にますよね?」
「それも、少し違うぞ
魂が無くなると死ぬ訳ではない、死んでから魂が分離するのだ」
「ということは、願い事を叶えて貰った後に殺されるって事ですか?」
「そういう事だ
覚悟が出来たなら願い事を言え」
まぁ、悪魔を呼び出しておいて、無事に済むとは思ってなかったし、願い事さえ叶えてくれれば、この世に何の未練も無い
ただ、全く怖くないと言ったら嘘になるだろう
その証拠に、青年の手や足は無意識の内に、小刻みに震え始めている
「貴様、震えてるではないか
今ならまだ引き返す事は出来るぞ
お前の両目と引き換えに、取引を中断する事も出来る」
ここまで来たら、もう引き返せない
元より引き返す気も無い
青年は覚悟を決め、願い事を言うことにした
「わかりました、願い事と言うのは、妹の病気の事です
妹は不治の病と診断され、余命があと僅かしかありません
不治の病を治して、妹に普通の生活をさせてあげたいんです」
「ぐはははは
妹を助けようとして、自分の魂を投げ出すとは大した奴だ
今まで願い事を叶えた奴等は、私利私欲のためにしか願い事を言わなかったぞ
ぐはははは」
笑い転げる悪魔、正確に言うと仔犬が魔方陣の上でグルグル跳び跳ねている
「僕は何の取り柄もない奴なんです
友達も居ないし、暗くて人見知りで、悩んでばかりで、どうしようもない奴なんです
病床の妹はそんな僕をいつも笑顔で迎えてくれて、励ましてくれた・・・
妹の方が僕より遥かに苦しいはずなのに・・・」
「願い事は聞き入れたぞ」
悪魔がそう言ったので、妹の病は治ったのであろう
悪魔との契約を結んだ時から覚悟はしていたのだが、最後に妹の笑顔が見られないのは残念で仕方ない
しかし、契約は契約である
青年は目を瞑り、悪魔に殺されるのを待つしかなかった
すると、悪魔が話し出す
「願い事は叶えてやった
だが、人のために自分を犠牲にする奴を見るのは始めてだ
少し興味が湧いたから、殺さないでやろう
魂は、お前が一生を終えてから頂く
我にとって、人間の一生なんぞほんの一瞬に過ぎないが、暇潰しには丁度いい」
「え?」
「何度も言わせるな、但し、他の悪魔に殺されて魂を持っていかれたら一大事だ、殺されないようにお前を見張らなきゃなるまい」
青年にとっては願ったり叶ったりの状況
願い事は叶うし、殺されないし、逆に殺されないように最強の守護まで付くという、おまけ付き
妹も再検査の結果、異常なしと診断され、驚いた表情の医者達を尻目に、病院を退院することが出来た
そして、全てが昔のままの生活に戻った
「お兄ちゃん!おはようっ!」
「あぁ、おはよう」
「ほらぁ!元気無いぞっ!
もっと元気よく挨拶しなきゃっ!」
「わかった、わかった」
「返事は1回でよろしい」
「わ・か・り・ま・し・た」
唯一変わった事といえば、今妹が抱いている仔犬が悪魔って事だけだ
悪魔の言葉は、召喚した俺にしか聞こえないようで、家族はみんな普通の仔犬だと思っている
ちなみに名前は白
毎朝目が覚めると、悪魔の白は枕元にちょこんと座っている
俺達を守るために
悪魔とは人間が勝手に作り出した偶像の産物なのかもしれない
あれだけ神様にお祈りしても、妹を助けてくれなかったが、悪魔はこうして助けてくれた
「悪魔って本当はいい奴なのかもしれないな」
俺が小さな声で呟くと、妹の腕の中で悪魔の白は尻尾を小さく振っていた
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