第2話
「おやキッカちゃん今日も子供たちの訓練かい?」
「はい、最も皆さん成長早くてもう教えることはほぼありませんけど」
2年前にルーヌ村という村に引っ越したキッカは子供たちや自衛団員に剣を教えていた
自然の多い長閑な村だ
真剣は握れなかったものの木刀は何とか振るえたので道場を開いて自衛団などの訓練を手伝っている
後衛都市に属するこの村は魔獣自体少ないとは言え迷い出る事がある
その際の防衛手段として使えるとのことで元冒険者のキッカに白羽の矢が立った
木刀でも実力は発揮出来る
「手合わせしようぜ」
道場の中に入ると村の自衛団最強のダウドが待ち構えていた
村内で活動していながらCランク冒険者相当の実力があり自衛団の中だと突出した強さを持つ
「良いですよ」
片手で木刀を持ち切っ先を向ける
真っ直ぐ突っ込んでくる
回避せずに木刀で受ける
魔法や魔力の使用無しの純粋な剣術勝負
木刀がぶつかり合う音が道場内に響き渡る
剣術の腕では拮抗している
打ち合い若干防戦になる
「そろそろお前に勝てそうだな!」
「油断大敵です」
相手の木刀が当たると直前に自分の持つ木刀を持ち方を変えて受け流し体制を崩した相手の背中に一撃打ち込む
「ぐっ」
「私の勝ちですね。勝てると思うと油断する所が貴方の悪い所ですね……皆さん今日は1対1の訓練です」
見ていた弟子達の方を向き木刀を構える
「さぁ遠慮なくかかってきてください」
「「手合わせよろしくお願いします!」」
道場にはいつも通り木刀がぶつかり合う音が響き渡る
弟子達は容易に一蹴される
「魔獣戦の訓練はしないのか?」
「魔獣戦の訓練は迷い出た魔獣だけで不要な戦闘は避けます……実戦は経験多い方がいいですが命をかけた戦いは慎重にやるべきですから……それに私は戦力になりませんし」
自衛団及び子供たちとの訓練を終え休憩中にダウドが話しかけて来る
2年経った今でも真剣を握れていない
魔獣が出た時も後方で指示を出して回復魔法や支援魔法を使うだけだった
魔法は本職には遠く及ばない
「確か元Bランク冒険者だよな? 今まで出てきた魔獣なら倒せたのか?」
「そうですね、昔ならグーラベア程度であれば一度に数体を相手取っても余裕でした」
「あれを程度呼びなのか……まぁこの村周辺は比較的に弱いと言われてるしな」
グーラベアはこの周辺では魔獣の主と呼ばれている、ダウドクラスで一体倒すのにかなり苦戦するレベル
キッカは一般の考えとはどこかズレている
「魔獣が出たぞ!」
「噂をすればって奴かお前ら戦闘準備だ!ガキ共は村人集めて避難しろ!」
「はい!」
休憩していた自衛団員が全員立ち上がり各々武器や防具を身に付ける
子供達は木刀を置いて急いで走って道場を出ていく
大声で襲撃に気づいていない村人達に避難を促す
「魔獣の種類は?」
「グーラベア2体にゴブリン数体だ」
「マジかよ、若い衆じゃグーラベアはやれねぇし俺1人じゃ2体は倒せねぇぞ」
「……1体は私が時間稼ぎます」
キッカが木刀を握り締める
「お前魔獣の前に立つの怖いんだろ?」
「じ、時間稼ぎくらいなら……」
「分かった任せるぞ!」
キッカは覚悟を決めていた
ダウドはキッカにそれ以上は何も言わずに村人に避難を促す
この村は広くなく道場も村のほぼど真ん中にあるためすぐに向かう事が出来る
若い衆がゴブリンを相手取っている間にダウドとキッカはグーラベアと対峙する
それぞれ距離を取り目の前の戦闘に集中出来る位置に立つ
訓練通り順調に戦いを有利に進める
1人を除いて
「ひっ」
魔力を込めた木刀で攻撃を防ぐ、魔力を込められた木刀は耐久力が高く傷一つつかないがキッカは体勢を大きく崩した
「キッカさん!」
「だ、大丈夫!」
すぐに距離を取り構え直したため追撃は来なかった
魔獣を前にすると黒龍を思い出して恐怖する
(時間稼げばダウドさん達が加勢してくれる、それまで耐えれば……)
「お前らゴブリン倒し終えたらキッカに加勢しろ!」
「はい!」
ゴブリンを倒し終えた自衛団員が加勢に来る
1人が盾でグーラベアの攻撃を受け2人が切りかかる
自衛団はダウドを除いても10人居るが実戦参加出来るのはその半数、うち1人はヒーラー
「お下がりください」
「すみませんお願いします、身体強化」
支援魔法を使う
身体強化はその名の通り身体機能を上昇させる
キッカの他人にかける支援魔法は無いよりはマシ程度の効果
まだヒーラーは未熟ゆえ支援魔法が使えずそのサポートをキッカがする
キッカは予備の武器を持った戦闘非参加組に守られる
「指示は何かありますか?」
「強撃……直撃……は……ダメです……タンクは何度も交代しつつヘイト稼いで……ください深く踏み込んではダメ」
「タンクは強撃を回避しつつ2人で順番に稼いでください!」
キッカの言葉を受け取ったひとりが大声で指示を出す
「なら先俺がやる、タイミングはどうするか」
「隙の多い強撃来たらにしましょう、来なければ途中でこちらが挑発します」
ヘイト、相手の注意を引きつける事で相手によるが基本は攻撃力の高い相手やヒーラーが狙われる
その対策として開発された魔力を通し感情を揺さぶる魔法を盾役若しくは回避の上手い人物が使う事で注意を引きつけることが出来る
問題としては魔法の効果はそう長くないという事と感情を揺さぶる為突然相手の行動が変わる事があるという点、その点を踏まえても尚戦況を有利に動かせる為冒険者内では頻繁に使われている
「回避! こっちだ!ヘイトハウリング」
魔法を発動する事でグーラベアが魔法を使ったタンクへ攻撃を開始する
「助かった」
「回復します」
「こっちにもくれ」
「は、はい」
ダウドが1人で戦っている
実力差がある場合足手まといになる可能性があるため自衛団の他のメンバーは下手にダウドに参戦出来ない
「がっ……」
タンクの1人が緊張と疲れで一瞬の隙を見せた所を逃さず鋭い一撃を繰り出す
防御が間に合わず爪は鎧を貫く
「ガート!」
アタッカーの2人が攻撃を仕掛けもう1人のタンクが叫び徴発する
「ヘイトハウリング! こっちを向け」
タンクが剣で切りかかり盾で攻撃を防ぐ
ヒーラーが近づき回復魔法をかける
(生きてるけど戦線復帰はキツイかな)
「まだ戦える!新しい鎧と盾をくれ!」
「はい」
非戦闘員の自衛団員が鎧と盾を手渡す
まだ癒えきってないが今付けてる鎧を脱ぎ新しい鎧を身に付けて戦闘に参加する
「ヘイトハウリング!」
苦戦するも時間をかけてダメージを稼ぎこのままなら倒せるという所まで来た時頭上で咆哮が聞こえる
「……ワイ……バーン」
飛竜種ワイバーン、魔獣の中でも最上位に君臨する龍種の中では最弱とされているがその強さはBランク冒険者で構成されたパーティ1つが苦戦するレベル
ダウドでは勝てない……いやランクで考えればキッカですら勝てるかわからないレベルの相手だ
絶体絶命
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