不器用な大人たち

大人になってからの駆け引きは

初々しさのカケラもないって、誰が言ったの?



新しい職場で 売れ残っていた彼を

私は お情けで拾ったのだろうか。

「好き」も

「付き合って」も ないままに

私達の関係は、今に至る。


周りの人には内緒にしていた。

同じ部署だと 都合が悪いから。


それにしても、

まさかのチェリーじゃあるまいし、

ひとつき経っても、キスのひとつもくれないなんて。


確かに、

一緒に夕ご飯を食べるだけの仲 という事実しかないし。

携帯のメールも、私からばかり。


意味あるのかな、この関係。


このまま女を腐らせるのは イヤだ。

ハッキリしないまま、よく耐えたなぁ、私。


少しだけイライラしながら、

「ねぇ、アナタは どうしたいの?!」


お皿のケーキにフォークを付き立て、


思わず声に出してしまった。


アナタは、

不意打ちを食らって

目を丸くして


フォークを置いて、近付いて、


私の頬に唇を寄せる。


私の目から

たまらず こぼれた 一雫を

アナタは そっと 口にする。









恋に久しぶりのアナタには

きっと それが せいいっぱい。


素直になれない 私が悪いんじゃない!


年齢なんて かわらないんだし。

経験なんて 数える程よ。アナタよりは 多いだろうけど。


悔しいかな。

私は王子様を探していたのに。

どうして、こんなヘタレに引っかかったのだろう?

何が良かったのかって?


優しさ?

否、

スーツ姿?


他に 誰もいなかったからよ!

あの部署で ひとり余っていたのは。

みんな お手付きだったのだもの。


いい男は既に誰かのもの。


だけど、

まさか アナタに引っかかるとは 思ってもみなかった。


きっかけなんて 覚えていない。


何か よく分からないものに引き寄せられて。

悪い魔法にかかったみたいに。


私は、

目も閉じずに 口付けたアナタの顔に 向き直し、

顎をすくって

リップ音を響かせる。


何が起こったのか わからないなら、

もう一度 唇をあげようか?


あなたと私の 初めてのキスは

これから はじまるのだから。



雰囲気ぐらい 作ってよ!


豆鉄砲食らったアナタの顔に 

私は目を閉じて 合図した。


魔法を解いてくれる王子様がいないなら、

私が魔法を解いて王子様にしてあげる。


そう思ったのに。 

どこまでもオクテな アナタの仕草は

やっぱり 私をイライラさせた。


でも、

どこかで

アナタを

私色わたしいろに染められる期待感から


喜んでいた……


そんな気がする。



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