DOMINATION

10まんぼると

夢焔

 暗がりの中を歩く。少し進むと数えきれない程ののキャンバス台が見える。円を作るようにして並べられたキャンバス台には、人の顔が描かれている。知らない人ばかりだ。円の中心を見ると、炎が灯っている。とても強く燃えていて、熱気が押し付けてくる。


「ねえ」


僕は慌てて後ろを振り向く。僕より少し高い彼女は、喉元にナイフを当てながら話す。


「これ、あげる」


渡されたのは青いペンダントだった。なんとか冷静を装いながらそれを受け取る。彼女はにやりと笑うと


「すぐに会いにいくからね」


そう言うと、1つのキャンバス台の紙を真ん中の炎に入れて燃やして、暗闇の中へ消えていった。手に持っている青いペンダントが光った。



 テレビをつけると朝のニュース番組が流れていた。殺人事件を取り扱っている。チャンネルを変えて天気予報を流しているのを探す。朝起きてから汗をかくほど暑い。天気予報を見ると、2月なのにも関わらず最高気温が30℃超える異常気象だと言われている。こんなことはここ150年くらい起こっていないらしい。


「お母さん。なんでこんなに暑いんだろうね」 


「ほんとだよね。学校行く時も雪解け水に気をつけてね」


「うん。分かった」


朝ごはんに出されたパンとサラダを食べてから、高校へと向かった。


 学校帰りに雪解け水で染みた道路を歩いていると、目の前に猫がいるのを見つけた。猫は僕の存在に気づくとじっとこちらを見つめる。目はサファイアのような青色をしていて、毛は白い。


「かわいいなー」


そう思って猫に近寄る。すると、僕の方から離れてしまった。必死に猫を追いかけると、1つのお店に辿り着いた。猫は、柔軟な体を上手く使ってその建物に入る。追いかけるのを諦めて踵を返すと前のほうからお面を被った人が歩いてくるのが見えた。その人は優しい声で、


「あちらの建物に来てもらってもよろしいでしょうか」


と言った。


「はい...」


言われるがままに僕はドアを開けた。中に入ると雑貨品がたくさん綺麗に並べられている。さっきの猫もぐっすり眠っていた。


「あっ。さっきの猫」


「猫?あーアクアのことですか」


「アクア?」


「名前ですね。まあ猫ではないんですが、そういうことにしておきましょう」


そう言いながら、彼は箱を取り出した。


「こちらをあなたに渡したくて。つけるといいですよ。1度手に取ってみてください」


恐る恐る箱を開けると青いペンダントだった。 


「どこかで見たことあるような」


そう思って首にかけてその綺麗なそれに見とれていると、気づくとそこに建物はなくただ、道路の上で立っていた。


「今のって一体?」


不思議に思いながらも、そのペンダントをカバンにしまって家へ向かった。どこかで猫が鳴いたような気がした。



 次の日、朝、窓を見ると雪が降っていた。昨日の猛暑とは一転、2月らしい気候で安堵した。この地方は標高が高く、かなりの日数雪が降る。今は高校1年。何人か友達も出来て楽しい生活を送っている。青春は出来そうにないけど...。親友の1人に脊田霊斗せだれいとという人がいる。趣味が同じで入学してからずっと仲良くしてもらっている。そんな彼と今日は遊びに行くことになった。大阪のテーマパークに着く頃には雪も小降りになっていた。彼と幸せな一日を過ごした。


「少しお手洗いに行ってきてもいい?」


「うん。分かった」


そう言って、帰りに彼が居ない間にあのお面を被った人を見た。僕には気づいていなそうだった。かなり異彩を放っていた。そんな変な人からもらったペンダントを肩身離さず持っているのは、それだけペンダントに魅力があるからだろう。もっと普通にこれに会いたかったと思う。青いペンダントを空に翳して、煌めきを目に焼き付けた。



 目の前で燃える1枚の紙。そこにはメガネをかけた女性の顔が描かれていた。それを燃やしながら彼女は笑う。そんな姿を、僕は物陰からバレないようにこっそり見る。足に何かが当たったような気がする下を見ると猫が足元で立っていた。


「ニャー」


その鳴き声で僕は彼女に気づかれた。必死に走って逃げると、木でできた扉がある。それを開けた瞬間僕は深い眠りから覚めた。

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