鬼火のカトリ

青草

 私の見える世界は、みんなとは違うらしい。そう気づいたのは、もうずいぶん前のことです。


 ある日、何も知らなかった私は、公園でアレを追い回して遊んでました。まるで蝶でも追いかけるみたいに。

 そうしたら、近所の子に「何してるの」って聞かれたんです。


「何って。アレを追いかけてるの」

「アレ?」


 その子は、一生懸命、目をこらすんだけど、どうしても見えないみたいでした。

 私には、ふわふわ浮かぶ火の玉が見えていたんですけど。鬼火っていうんでしょうか。


 そういうことが何度か続いて、やっと判ったんです。

 私だけが見えてるんだって。


 お盆の時なんて、それはひどいもんです。

 私が見ると、鬼火が魚の大群みたいにうようよしてる空も、お母さんやお父さんは「いい天気だね」って言うんですから。


 ねぇ、神様。教えてください。

 なんで私は、みんなと同じように見えないんでしょうか。

 どうして私だけ違うんでしょうか──。


 今日は、8月31日。中学校最初の夏休み、最後の日。

 結局1日も外に出ることができず、今日も畳でごろごろしてます。


「それじゃお母さん、夕飯の買い物行ってくるから。華は、洗濯物取り込んでおいてね」

「え〜。なんでぇ」

「少しは動かないと身体に毒よ。あんた、夏の間ずっとごろごろしてたんだから。取り込んだら、冷蔵庫の中にスイカ切ってあるから、食べていいわよ」

「ちぇ」

 ──スイカは、ちょっと食べたい。

「宜しくね。行ってきま〜す」


 中学へ行ったら、一人ぐらい見える人がいるんじゃないかって期待してました。

 けど、入学式の日にもう判っちゃったんです。生徒も先生も、校内をうろついてる鬼火に気づいてないって。やっぱり私だけしか見えないんだって。

 私だけがみんなと違うんだって。

 そう思ったら、吐き気がしてきて、入学2日目から学校に行けなくなりました。


 明日は行こう。明日は行こう。毎日考えました。

 でも、行けませんでした。

 明日から新学期が始まるけど、やっぱり──。

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