第8話 確変少女

 高生と公輔は、二人が話しているうちに、店内に誰も残っていないことを確認するために、店内の音ゲーコーナーとパチンココーナーを回りに行った。

 「だれかいませんかー?」

 高生が、ゲーセンの内に向かって大きな声で叫んだ。ゲーセン内では、やりかけの音ゲーや、ジャックポッドのメダル台、虹色に輝くパチンコ台などがあった。こんなに確変が来てるのにアリスさんの放送でみんな行ってしまうなんて……。公輔さんの言うことは本当だったんだなあ……。と高生は思った。自分たちだけでやればいいなんて言って一人で勝手にやっていたら、どんな罵声や怒号を浴びせられるか分からない。

「いま確変きてるんだぞぉ!離れるわけ無いだろ!」「音ゲーの途中なんですけど払い戻し出来るんですかあ?」など、想像するだけで恐ろしい。本当にアリスさんはすごかったんやなあ……。

 「よし、誰もいなそうですね」

 そうして高生が別のコーナーに行こうとしていると、公輔が「待て」と高生を呼び止めた。

 「なにか聞こえないか???」

 公輔は、ゲーセン内で耳を澄ましている。高生も同じように耳を触って音に意識を集中させた。

 「!!!」

 高生も公輔と同じように何か音を感じ取った。

 「………ェン………ウェーン………うえーん!!!」

 音の方向に二人は近寄ってみると、そこは、パチンコ台が並んでいるところだった。だが、パチンコ台がとてつもない台数密集していたため、一目でまとめてすべての台の椅子の上などを確認するのは不可能であった。また、台から出る音は異常な大きさで、声がどこから聞こえているのかも分からなくなりそうなレベルだ。それでも公輔と高生は声の正体を探ろうとした。

 「泣き声だ!誰かの!女の子だァッ」

 公輔がそう叫ぶと、一人でパチンコ台の椅子の上を一つ一つ引いて確認をしていった。その時に高生も確信した。その子は必ずここにいる。と。

 「公輔さん。僕もやります」

 高生が公輔と反対のパチンコ台を確認することにした。一つ、また一つ、、、と椅子を持ち上げるだけでも高生には重労働であった。


 黙々と確認をしていく二人だったが、どの台のところにいるかまだ分からず、ひたすらに見ていくだけだった。

「くそ、こんなんで見つかるわけがない…………。いや、見つける。必ず助け出す」

 そう呟いた高生は、その作業をずっと早くするように頑張った。その高生の努力が実ったのか、みるみる声が近づいていき、やがて、耳を澄まさずとも聞こえる場所まで来た。そして、次の台の椅子を上げたとき、確かな重みを感じた。その台は確変の起きている虹色の台だった。

 「ここ、か??」

 高生が思いっきりその椅子を引くと、そこには一人の小さな少女が泣いていた。本当に幼い子だった。いわゆる「ロリ」っていう感じだろうか。

 「あ、おにいちゃん、、、だれ???」

 その女の子は上を向いたまま高生に話しかけた。頬には涙が浮かんでいて、目は真っ赤で充血している。高生は、その女の子を見て、「可愛い………」と呟いた。だが、一応ここでは店員。しっかりとしなければと思い、その少女に自己紹介をした。

 「僕の名前は、津田高生って言うんだ、

よろしくね。君はこのゲーセンで一人だったの???」

 すると、その少女はコクリと頷いた。

 「じゃあ、お兄さんに名前、教えてくれないかな?」

 高生は、「おっさんじゃなくてお兄さんって言って良かったんだろうか……。まあいいや」と思っていると、その少女は口を開いた。

 「おにいちゃん……。あのね、私はね、えーっと、「みきのりか」って言う名前なの」

 高生はそれを聞いて笑顔で言った。

 「いい名前だね!」

 そんな他愛のない話をしていると、公輔が走って近づいてきた。

 「大丈夫か?!あ、君が泣いていた女のコ?」

 公輔は、のりかを見るとすぐに少女と同じ背丈くらいまでしゃがんで聞いた。

 「うん。大丈夫だよ。おじちゃん」

 「お、おじちゃん、だって、、、」

 公輔はおじちゃんと言われたのがショックだったのか、頭を抱えて座り込んでしまった。

 「こ、公輔さん、、、元気だして下さい……」

 高生が公輔を慰めるが、悪気のない少女から放たれた一言は公輔の心をズタボロにしたのである。いやあ、豆腐メンタルだなあ!

 「おーい。ふたりともお」

 後ろから声が聞こえて、高生が振り返ると、そこには義志斗とアリスがいた。

 「流石にそろそろここを出ないとまずいです。二次元コミュのドームもそろそろ危ないかもです」

 「そ、そうか、じゃあでないとな。のりかちゃん歩ける?」

 義志斗から、ここを出ることを薦められた公輔は、のりかに聞いた。

 「おぶって。」

 あ、あ、ああ…と公輔のうめき声が聞こえたが高生は、聞こえていないふりをした。そして、公輔は力を振り絞ってのりかをおんぶした。

 「ぐわああああ……」

 流石に可哀想だな…。

 「じゃあ地下を目指して行くぞ!!!」

 「おー!」

 のりかは、大きく腕を上げた。そして、のりかを含めた五人は、ゲーセンを出て、階段で地下に向かった。エレベーターも使えるには使えたが、途中で止まると終わるので、階段で降りることにした。建物はガラスづくりだったので、高生は外を見た。すると、先程よりもひどく黒い雲がドームの上を囲い、雷のようなものも落ちてきていた。本当に危ないかもな……。


 五人は、無事地下に着くと、沢山の人たちで溢れかえっていた。しかし、そんな中でも、地下は広かったのでなんとか全員収まっている感じだ。そこには、泣いている人もいるし、不安で頭を抱えている人もいる。そして、高生の横にはのりかを背中から降ろして、腰を痛めて泣いている公輔もいた。


 その後五人はなんとか場所を確保し、休憩を取っていると、地下に特殊部隊のような軍服をきた人たちが入ってきた。三人組で、先頭に立っている人は、美しいダイヤモンドのような輝きをもつ髪をしたロングヘアの女の人だった。20代後半くらいだろうか、めっちゃ最高!!!そして、二番目に並んでいる人は、40代くらいの教官みたいな人で、とても筋肉質で、腕の筋肉がパンパンであることは服の上からでも明確であった。そして、三番目に並んでいる人は


 潮道進向だった。

 

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