6
お店を出ると少し遅れながらも先を行くリナのの後を追うラウル。だが彼女は少し歩くと立ち止まり、後ろを振り返った。そんな彼女に追いついたラウルもその視線を辿りながら顔を後ろへ。
リナが見ていたのは先程のお店だった。
「気になりますか?」
「アイツらまた来るわね」
「そうでしょうね」
それからここまでとこの先へ続く一本の道へリナは軽く目を通した。
「多くのお店が閉店してしまっているのはそういう事だったんですね」
控えめな明るさの一本道を照らすお店の明りは疎らで、その多くがシャッターを下ろしてしまっていた。
「お腹はどうですか? さっきはああ言いましたが、実際は半分食べられたかどうかですからね」
「まだ空いてる」
「じゃあどこか適当なお店で買うか食べるかして今夜はホテルに戻りましょうか」
ラウルの提案に対し了承の意を歩き出す事で示したリナ。
それから立ち食い蕎麦を食べた二人は安いホテルの一室へ戻ると順番で一日の汗を流した。ホテルと言ってもそこは寝るだけのベッドとソファしかない狭い一室。
ソファに腰掛けた(スーツとは違いラフな格好の)ラウルはコインを上空へ弾いてはキャッチを繰り返していた。
そしてそんな彼を眺めるように見る(寝巻姿の)リナ。
「確かここの賞金首って――」
「あまり良い金額ではありませんね」
はぁー、リナの自然と零れた溜息はまるで露骨についているかのようにハッキリと室内へ響いた。
「今日もこれといって収穫は無かったですからね」
「別の場所に行く?」
「場所というのはこの国を離れるってことですか?」
「いや、別の地区」
「それもいいかもしれないですね。――そうだ」
するとラウルは手を叩き何か思い出したような声を出した。
「最近、ハズレと歩き回って収穫なしでお疲れでしょう。マッサージでもしましょうか? 自分で言うのはあれですが、中々に上手いですよ?」
表情から既に自信で満たしたラウルはそんな提案をしてきた。
リナは信用ならないのか、少し考えるように沈黙を挟むが体の疲れに押し切られる様にベッドへと倒れる。
「お願い」
「お任せを」
そしてベッドにうつ伏せで寝転がったリナと彼女を見下ろすラウル。
「やっぱりまずは脚ですかね。それから上半身――どうですか?」
「それで」
「分かりました」
一人頷いたラウルはまず足元に座ると、細身だが触れてみれば内側の筋肉がしっかりとした脚を手に取った。しかもその肌はスケートリンクのように滑らか。
ラウルは足裏のマッサージから入り、脹脛そして太腿と手慣れた手付きでマッサージを進めていく。それは見ているだけで気持ち良く疲れの取れそうな手際だった。
それから片足、もう片脚とマッサージを続けていったラウルは――リナの腰に跨り背中のマッサージをしていた。
「やっぱり気になるんじゃないですか?」
「何が?」
「さっきの商店街です」
「あぁ」
「実は一つ、提案があるのですが」
「何?」
だが焦らす様にラウルはまずマッサージの親指に力を込めた。
「――海老で鯛を釣るといったところでしょうか。あのチンピラを徹底的に叩いて、より強敵を誘き出すんです。確かあそこは商業施設の為にどうしても欲しい場所の様ですし」
「その裏には権力が隠れてるって?」
「えぇ。地元のチンピラが駄目となるともっと強力な存在が出て来るでしょう。それこそマフィアとかね」
「どれだけの規模かにもよるわね。お金のある人間ならその可能性もなくはない。でも元からパイプがないのならもう少し組織化の甘いのが来る可能性もある」
「とは言え、お金がある以上それなりの人材に頼むでしょう」
「そうかもね」
「ではどうします?」
マッサージを受けながら少しの間、黙り考えるリナ。
「それでいこう」
「分かりました」
「もう少し肩の方お願い」
「ここですか?」
「あぁ~。そこ」
「思った以上に凝ってますね」
それからもマッサージをで疲れを癒したリナはラウルと共に十分な睡眠を取り更に疲れを体から出し切った。
翌日――穏やかな昼過ぎ。カフェの外テーブルで珈琲を飲むリナ。足を組みカップを持つその姿は服装も含め中々に絵になっていた。
するとそんな彼女の向かいへそっと人が腰を下ろした。
「場所は分かりましたよ。流石に昨日今日で移動してるとは思えないので、まだ大丈夫でしょう」
「そこにいるのは?」
「組織という程でもないですが、チンピラと言うよりは半グレのような――マフィアの卵とでも言った方がいいですかね」
「獲物は?」
「まず彼らは大したことは無いです。多少なら取れるでしょうが。問題はその次ですね。彼らの雇い主がどれ程の力を持っているのか分からないので何とも。もしかしたらマフィアが出て来るかもしれないですね」
「マフィア……」
リナはそう呟くと珈琲を一口。
「もしそうなったら組織規模にもよりますが、色々と考えないといけなさそうですね」
「とにかく今はそいつらからね」
「そうですね。では藪をつつきにでも行きましょうか」
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