第165話 潰える悪意と次の一手
「くそっ!!やられた!! セヴンスめ……こんな屈辱は初めてだ」
頭を抱え込み机に突っ伏す千疋狼。
「普通自分から人外だとバラすか!?今の時点では疑われようもない立場に居るんだぞ!?」
怒りに任せて髪をかきむしり、ヒステリックな叫び声を上げる。
実際、魔女セヴンスの滅茶苦茶な暴露放送までは概ね作戦通りに進んでいたのだ。
発言力の大きい先進国を幾つも巻き込み、ゾンビ共を駆除対象に指定する所までは。
その後に鼻薬を嗅がせた
「エイリアンまでアレに協力してるとは予想外だったな。テレパシーに永続魔法とアレだけぶっ飛んだ内容を連発されれば嫌が応にも話題になる。失せ物探しの発動条件に動画を一定時間以上視聴する事にしたのも良い手だ。何をどうやってもターゲットが死体共の境遇について語っている場面を見せられる」
マクシムも苦虫を噛み潰したような表情でそう吐き捨てる。
幼い魔女の真摯な語りとはた迷惑なエイリアンのやり取りは、失せ物探しの需要もあって配信から3日で既に億を超える再生数となっていた。
娘を名乗るゾンビが訪ねてきた所追い返してしまった、戻ってきてくれと懺悔する動画やポストも大量に投稿されており世間からの同情を得ている。
最悪なのは、札束で頬を叩いて職員を買収した
これで表の世界へ干渉できる手段をほぼ喪失してしまったに等しい。
「まだだ、まだ作戦が全部ぱーになったわけじゃねえ。旦那、あんたに頼んでた捏造映像のバラマキを頼む。逆に今だからこそセヴンスの野郎に疑いの目が向く可能性が……ギリギリ……あるはず」
成功率が高いとは口が裂けても言えないが、それでもやらないよりマシと次の手を打つ。
人気がアレばあるほど、清廉潔白に見えれば見えるほど、逆に闇を探す、後ろ暗い何かがあるはずだと逆張りをする人間は増えるものだ。
運が良ければヤツの活動をそれなりには妨害することが出来るだろう。
同じようなことを考えていたのか、苦笑を浮かべながらも了承するマクシム。
「まあ、暇にあかせてこれだけ大量に作ったんだ。お蔵入りにするのは無駄がすぎると言わざるをえんしな」
「くそっ!!やられた!! 藤女共め……こんな屈辱は初めてだ!」
前日の千疋狼と全く同じポーズで嘆くマクシム。
眼の前のノートパソコンに映されるのは#魔女セヴンスの正体 と銘打った捏造動画のうち、タイムスタンプが表示されてるものほぼ全てに#その時のセヴンス様 というタグ付きで貼り付けられた捏造動画に表示された時刻とほぼ同時刻の魔女セヴンスを撮影した動画。
その殆どが、魔法少女ウィステリア・ヴェールのアカウントから行われている。
「セヴンスのヤツを常に撮影してるとでも言うのか!?下手なストーカーより質が悪いぞあの女!」
なまじリアリティを追求して約半数の動画に日付と時間を画面に表示していたのが不味かった。
見知らぬ誰かの投稿よりも知名度のある人間の出した証拠のほうが信用されるのは道理だが、いくらなんでも日時のわかる動画ほぼ全てに、全く同時刻の本物の動画が#その時のセヴンス様 なんてタグを付けて投稿されるなんて誰が予想できる!?
それ以外の日付や時間の表示されてない動画や写真にも「ダウト、セヴンスは割と狂信的なたけのこ派よ?きのこばっかり回収してるそいつがセヴンスなわけ無いじゃない」だの「セヴンスさん、最初の数歩少し斜め方向に踏み込む。走り方が違う」だの細かすぎる真贋鑑定のポストが付いており、波紋を起こせなんて手応えは全く得られていない。
「菓子の好みだけでフェイクが確定するのはいくらなんでもありえんだろうが!」
拳を叩きつけて叫ぶマクシムに対して、その点に関しては理解できてしまう日本人の千疋狼がさもあらんと肩を竦めた。
「こいつは流石に想定外だ。旦那、あんたが悪いわけじゃない」
千疋狼の取ってつけたような慰めにすら僅かにありがたさを感じている状況は流石に惨めだと言わざるを得なかった。
「……しかし、作戦を大幅に修正せねばならんな。セヴンスを社会的に殺して報復する手は諦めざるを得んだろう。次の手はあるか?」
マクシムの問に千疋狼はしばし考え……。
「あるにはあるが時間がかかるし戦力も必要だ。化け物共も3人じゃ心もとない。大陸の方に伝手があったはずだからそちら側を当たってみる。すまねぇが旦那、その間死体共の相手を頼む」
そう言って東南アジア系の犯罪組織と渡りをつけに旅立った。
……駒として使う予定だった
「くそっ、せっかく用意した真っ当な手段があらかた潰れちまった」
何の成果もなく帰国し、土産物として買ったドライマンゴーをツマミにビールを飲みながらヤサグレる千疋狼。
マクシムの頭にそんな言葉が浮かぶが口には出さない。
利己的なこちら側の常識に縛られて自己犠牲の精神なんてキワモノを考慮しなかったのは自分も同じだからだ。
だが、ソレを逆に利用する手法だってこちら側の世界には無数にある。
「確認するぞ千疋狼。お前の目的、復讐はヤツに損害を与えることか?それともヤツを苦しめることか?」
世論を巻き込むだの、誹謗中傷をさせるだの回りくどい手は切り捨てる。
ここからはただの犯罪者による実力行使で行くと、そう決意したマクシムは悪辣な笑みを浮かべてショーチューを飲み込んだ。
「苦しめられるんなら苦しめてぇな。損害つったってアイツ、人的被害以外は気にもとめねえだろ……」
そもそもが家も金も戸籍も失っている相手だ。
現在の資産を失ったとてさして気にもしないだろう。
それ以前に、そもそも戸籍のないセヴンスが自分の資産といえるものを持っているかさえ怪しいところである。
社会的ダメージによる復讐という手段が潰えた今、次に狙うのはやはり精神的なダメージだろう。
というより、肉体的ダメージなんてものはゾンビ由来の痛覚遮断と復活機構の再生機能により効果が望めないと言ったほうが正しいだろうか。
「ならば、俺が奴らから一人拉致して来るというのはどうだ?後は千疋狼、お前の魔法支配と統率でドラゴンの構成要因にぶち込んでしまえば良い。あの善人共なら身内が傷つくのを許容できんはずだ」
「出来るのか?」
「流石に変身状態無理だがな。
マクシムの提案に千疋狼は歯をむいて笑いながら応える。
「そっちはオレがなんとかするさ。奴らの事だ、ドラゴンを倒すと罪もない同僚の一人が死ぬとなれば簡単には手出しできなくなるはず……。近しい人間のほうがダメージがでかいだろうが、最悪何処かの地方所属の雑魚でも効果はあるだろうぜ」
相手が善人ならばその弱点をつけばいい。
身内を人質に取られた時、奴らは簡単に罠にハマる。
裏稼業の常識として知られるソレを思い出し、悪党2人はにやりと笑った。
未だ見つからぬ悪党どもの企みは、暗い倉庫の中で研がれ続ける。
魔女セヴンスの顔が苦境に歪む、その日まで……。
☆★☆★☆★☆
理珠さんはヤンデレ気質なので、まあ、はい。
あと「きのこって形が違うだけのポッキーじゃないですか」とセヴンスさんが言ってます。
戦争に巻き込まれたくないならルマンドでも食べましょう。
拉致作戦、中の人を探るところからスタートなので本来なら時間がかかりそうですが、さて?
次回は3人娘のデビュー戦ログ回ですかね。
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