中二病の魔法少女ゾンビ からみてぃ

第141話 蘇りし者たち

 雨音と、雨漏りから滴る水滴が顔に落ちる冷たさで目を覚ます。

 不快な目覚めを強制された事には腹が立つが、生憎と無許可で廃屋に入り込んで休んでいる我々が悪いのであり、湧き上がった怒りは早々に矛先を失った。

 とはいえ、どんなトラブルが起こるか常に警戒し続けなければならない路上暮らしよりはよほどマシだろう。

 それに、している我々には合法的に拠点を手に入れる手段が無い。

 これ以上を望むのは贅沢というものだろうな。


 「アデリーちゃん、起きた?」

 部屋の隅で蹲るように毛布を被っていた長身の少女、オフィリアが心配げに問いかける。

 「ああ、リア。最高とは言い難いがそれなりの目覚めさ。だが、君が今日も目を覚ましてくれただけで1段階は最高に近づいたがね?」

 何せ我々蘇りし者レヴナントは魔物を倒し、その魔力を吸収し続けなければ生存出来ない存在だ。

 昨日は運良く魔物を撃破することが出来て魔力を補充できたとは言え、これまで何人も仲間を見送ってきたリアが毎朝不安にかられるのも無理はないことだろう。

 

 「で、昨日見つけた新人君とエルナは?確か、新人君、クレール嬢だったかな?の実家にに向かうと言っていたが?」

 問いかけと同時に部屋のドアがゆっくりと開き、生真面目さを隠しきれない面持ちの少女が大量の荷物を持って入室する。

 「ただいま戻りましたが……最悪でした。彼女、信じてくれないどころか罵倒し始めた両親に耐えきれなくて変身を解いてしまって……」

 ああ……。

 憎らしき認識阻害の魔法によって我々はの知人に出会っても死んだはずの誰かであることを証明することが難しい。

 特に、葬式を終えていたりすると詐欺師が金をせびりに来たようにしか見えないようで、本人しか知らないはずのエピソードを語っても禄に信じてもらえない有り様だ。

 変身を解いてしまえば認識阻害の魔法も解けて信じてもらえるだろうが、それはにとっては死を意味する。

 大方、だったクレール嬢はその認識が甘く、両親の罵倒に耐えきれず衝動的に変身を解いてしまったのだろう。

 ……まあ、そのままこちらへ帰ってきた所で希望なんて無いのだが。


 「しかし、証明出来なかった割には様々な物資を頂いたようだが、それは?」

 稀に、信じてくれて蘇りし者レヴナントとなった娘を受け入れてくれるご家庭もあるのだ。その場合、見捨てられた我々に対してそれなりの援助をしてくれるケースが多い。

 恐らく、自分たちが受け入れなかった場合の娘の状況を考えてしまって同情してくれているのだろう。

 だが、逆のケースで物資を頂ける状況は想像がつかないのだが?

 「だから最悪だって言いました。クレールさんのご両親は娘を見て、自分たちのやったことに気が付いてしまって……。娘を殺した罪悪感に耐えられずに家に火をつけて自分の頭を撃ち抜きました。今頃はクレールさんと3人並んで灰になってると思います」


 なるほど、エルナの持ち帰った物資はどうせ燃えて無くなるのならと彼女の家から失敬してきた物という事か。

 我々は基本的に犯罪行為を忌避しているが、戸籍もなく身分を証明できない我々が物資を調達するのにを避けて通れないことも理解している。

 まあ要するに、廃屋に入り込んだり、燃えて無くなる予定の食料や洋服をちょろまかしてくる等のあまり他人に迷惑をかけない程度の犯罪なら許容しているということだ。

 火が回るまで時間的猶予があり物色する余裕があったのか、エルナが持ち帰った物資には保存食や現金へ変えられる物が多い。

 これだけ有れば、しばらくは空腹で禄に眠れないなんて事も無いだろう。


 「……結局、また3人になっちゃったね」

 リアの言葉に沈黙が降りる。

 ここ、フランスで合流できた蘇りし者レヴナント2人は一人が魔物との戦闘で犠牲になり、もう一人は先程聞いた通りだ。

 魔物の出現が増えており、なおかつ対処が間に合っていないという情報を元にフランスまで出向いてみたが、対処が間に合わなかった魔物は複数回の帰還を経て強力になっていて一戦一戦が命がけだ。……いや、我々にもう命は無いのだがね?

 その分得られる魔力は多いが、戦闘で消費する魔力も多く効率が良いとは言い難い。

 現地の小さな魔女プティ・ソルシエール達は我々も攻撃対象にしているし、魔物を倒して安全を確保した後によそ者が手を出すなと罵倒される場合すらある。

 「この国での活動も潮時……か」

 

 かといって、どうすればこの状況が改善するのかという問題。それは17歳の小娘の頭では難題だった。

 濃紺、桃色、薄紫と、カラフルな髪色をしたティーンエイジャーの少女達が戸籍も住居も後ろ盾も無い状態から生活基盤を作り上げる術など考えつくはずもない。

 まあ、死んだ直後に蘇らされた都合、多少の現金やスマホなどの私物を持ち出せたのは良かったな……。

 お陰で、太陽光充電器は入手できたし、私の魔法があれば壁越しのwifiにタダ乗りする程度造作も無い。つまりは日に数時間程度、世間の情報を探ることが出来ているという事だ。

 SNSを通じて同じ境遇の少女達を探す事も出来たしな。

 

 しかし、フランスこのくにを出て何処に行く?

 EU加盟国はこの際見限ろう。なぜか各国の魔力保有者達は我々を敵と認識しているし、魔物の対処もフランスここ以外はきちんと処理されているおかげで我々が魔力吸収に使えるになかなかありつけない。

 ルーシャは戦争の影響や魔力保有者の非人道的な扱いが原因で魔物の対処が出来てないという話は有名だが、そんな国へ行っても我々蘇りし者レヴナントが人間らしい生活が出来るとも思えない。

 いっそアメリカの実験施設へ身売りするか?現状、人権人権とうるさいあの国ならメディアを通じて我々の現状を訴えた上で保護してもらえば少なくとも食事や寝床、ついでに魔物との戦闘で魔力を吸収する機会は与えてもらえる可能性が高い。

 重要な研究対象として扱われ、プライベートにはかなりの制限がかかるだろうが二度目の死を迎えるよりはかなりマシな部類だろう。

 他には……。

 

 「アデリーちゃん、日本はどうかな?」

 同じく今後の事を考えて居てくれたのだろうリアから提案されたのは予想外の国名だった。

 「ふむ?理由を聞かせてもらってもいいかな?」

 日本といえば、魔物の対処率ほぼ100%を誇る世界で最も魔物の被害が少ない国のはず。

 我々蘇りし者レヴナントとして、それはにありつけないという事を表し、生を繋ぐのに不適切な環境である事を示しているはずだ。

 ならば、なぜ?

 

 「アデライデ、もしかして知らないのですか?」

 ふむ?

 首を傾げる私に突きつけられるのは彼の国の魔力保有者、魔法少女達のファンサイト。

 いや、こんな物を見せて何が……?

 胡乱な眼でスマホをの画面を眺めていた私の眼に飛び込んできたのは、図書館で一人の魔法少女が変身する動画と、当時の状況を書き記した記事。

 軽装の形態から再度の変身によって戦闘用の衣装を纏うという特徴、日本人としてはありえない銀色の髪と深紅の瞳、空腹に腹を鳴らしながらも開館から閉館まで食事すら取らずに図書館に籠もっていたという行動。

 直感が告げる。コイツは同類レヴナントだと。

 加えて言うなら、生き返った時に禄に資金を持っていなかった為に食事すら取ることが出来ない追い詰められた状況であった事も悟る。

 

 「彼女、セヴンスちゃんね?今、日本で一番人気のある魔法しょ……や、魔女なんだって」

 は……?

 いや、だってコイツは同類レヴナントで、何も持ち得なかったはずの少女だ。大衆に受け入れられず、合法的な収入を得ることも出来ず、住む所にだって苦労するの死者なはずだ。

 ソレが、大衆に受け入れられ、あまつさえ人気になっている?

 

 「つまり、日本には我々を受け入れる土壌があると、そういう事か?」

 しかし、期待に満ちた私の質問に対し2人はやや困惑顔で首を振った。

 「えっと、セヴンスちゃんね?私達の目から見ればどう見たって蘇りし者レヴナントなんだけど、あちらの国的にはルーシャの実験施設から脱走してきた実験体って感じの扱いになってるの」

 「しかし、本人は流石にあの『蛇』に出会っているでしょうし、直に会話をする機会を得られれば我々を同類として保護してもらえる可能性があるのではないかと」

 なるほど……。


 他の魔法少女の自己紹介動画で楽しそうに笑い、慕われる彼女を見て胸に浮かぶ嫉妬を理性で抑え込む。

 嫉妬それは今必要ない。どうして我々はこんな状態なのになどと比べても何一つ環境は改善しない。

 ならば、彼女と接触してみるのも一興だろう。

 あわよくば保護してもらえるやもしれないし、そうでなくとも多少の支援はしてもらえるだろう。最悪、そういう立場に辿り着くために何をしたかの話が聴けるだけでも価値はあるはず。

 少なくとも、実験施設に身売りするのはその後の方が良さそうだ。

 

 「ならば、行ってみるか……。日本へ」

 リアとエルナが笑顔で頷き、私の手を取る。

 「あ、アデライデ、アレはどうします?」

 「はっ、我々を受け入れてくれなかったこの国に棄てて行くさ。騒ぎになるやもしれんがその程度の仕返しはさせてもらわないとな」

 手に負えないと放棄して隣室へと押し込めたモノの事は忘れてしまおう。

 どっちみち私に責任のあることでも無し。

 「では、行こうか」

 

 根源へ接続し、魔力を回し、を紡ぐ。

 【せかいへ ねがう われらを 日本へ】

 私のを世界が聞き、認識し、理解して……。

 

 扉が開かれる。

 


☆★☆★☆★☆


ということで、第四期開始でございます。

なまじ、第一例が成功しちゃったもんだからどんどんやれと言われて生き返された彼女達。

セヴンスさんは社会経験豊富なアラサーだったので色々手段が思いつきましたが、年相応の彼女たちでは犯罪に手を染めずに生きるには身を寄せ合って知恵と力をあわせる以外にありませんでした。

酷いことになってるんじゃが?これどーしたら?とアフターケアをしようとするも、邪神が次から次へと仕事を押し付けてきて身動きが取れないイツァナグイの胃はもう限界です。


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