第65話 まあ、結局普通の熊ですので……

 「来ました!ただいま、魔生対の魔法少女2名が自衛隊の防衛陣地へと到着しました!特徴的な振り袖と黒いゴシックロリータのドレスが見えます!魔法少女ウィステリア・ヴェールと魔女セヴンスがこちらの『戦線』での対処に当たる模様です!」

 「しっかし、なぜ自衛隊は魔物化してるとはいえ熊相手に後手に回っているのでしょう?戦車でもって突っ込んでばばーっとやっちゃえないもんなんですかねぇ?」

 

 「これがですね、自衛隊が熊などの野生動物の対処に当たるには自衛隊法83条の有害鳥獣駆除を目的として自衛隊に災害派遣が根拠になるわけですが、こちらの法律に従った場合は基本的に鳥獣保護法に従う必要があるわけでして。まあ、コレが困ったことに鳥獣保護法では夜間の発砲は禁止となっているわけですね。自衛隊法94条の災害派遣を根拠に出動すれば銃器の使用は解禁されるわけですが、魔力災害及び不明現象由来生物に対する新法、俗に言う魔対法ですね。これでは不明現象由来生物、つまり魔物の対処は魔生対が対処し、自衛隊はコレへの攻撃を禁ずるとあるわけです。これは、10年前の最初期の魔物との戦闘で……費用と、被害が……であり……」


 到着するなり自衛隊の陣地でスマホを開いて熊大発生特番を見てみれば各地の様子がめちゃめちゃ仔細に報道されてました。

 この熊の群れに自衛隊で対処出来ないのかと思ったら何やら法律が邪魔をしているようで。

 まあはい、最初期の様に魔物への対処で出撃して戦車数台壊して市街地ベコベコにして何とか1匹倒しました、だと毎日のように現れる魔物に対しての対費用効果がいくらなんでもって話になりますよね。

 で、魔物であり野生動物でもある今回の熊、物理がそれなりに効果のある場合が想定されてなかった感じですねぇ。

 それでも、鉄条網や土嚢、車両自体さえも使って短時間で熊が市街地に降りてこられないような防御陣地を形成して対処したのは称賛に値すると思います。


 とりあえず、現場の責任者の方に挨拶して自由行動の許可と明かりの調達を頼みました。夜の森で視界が効かないのは前回でこりましたからね。ライトでばりばりに照らして貰う予定です。

 自衛隊の皆さん、悔しいでしょうけど銃は今回無しでお願いしますねー。

 今後の魔操種の出現時に備えて法律の整備も進めてもらいたいものです。

 まあ、そろそろ行きましょうか!

 理珠さんの手を取って防御陣地の少し手前の開けた場所に飛び出します。




 あーえっと、私の説明が悪かったのか自衛隊の中に私か理珠さんのファンがいてその姿を見ていたかったのか、サーチライトって言うんですかね?アレがめっちゃ私と理珠さんに当たってます。

 いや、良いんですけどね?結果的に視界は確保できてるわけですし。

 ただ、普段の数倍……もっとかな?の台数のカメラが常に私と理珠さんを追いかけていてちょっと落ち着かないです。

 

 「セヴンス様、木々の間に無限の縛糸グレイプニールを張り巡らせて頂けますか?その後、わたくし達の魔力におびき寄せられてやってきた魔操種をわたくしが弓で射抜くという策ではいかがでしょうか?」

 「はい、それで大丈夫です。怪我に気をつけて戦いましょうね」

 ん、私の考えたのと同じ様な作戦ですね。問題なしです。

 本当は張り巡らせた無限の縛糸グレイプニールにずっと吸魂の雷刃ストームブリンガーを流し続けられれば良いんでしょうけど、流石に魔力収支的に割に合わないんですよね。

 なにせ魔操種は多く見積もっても通常の魔物の1割以下の魔力しか持ってませんからね。

 なんだかんだ、魔物からの魔力で生きてる私としては、魔力の消費をそれなりに節約したいという考えもありまして……。


 っと、なんだか森の奥から獰猛な唸り声を上げながら重量級の何かが沢山走ってくる音が聞こえます。

 ……いや、これ地味に怖いですよ。一応正体がわかっているとは言え、暗闇の中から獣が沢山迫ってくる気配がするのって。

 えー、ビビりな私は念のため無限の縛糸グレイプニールを増量して襲撃に備えました。


 ずずんと重い衝撃音と共に操られたツキノワグマの集団が無限の縛糸グレイプニールの網に突っ込みました。

 って、これ不味くないですか?網の支点となっている木がベキベキ言い始めてるんですけど!?

 「射ます!水流崎流射弓術・枝垂れ華!」

 理珠さんが複数の矢を掴んだかと思うと、目にも止まらぬ速さで、文字通り矢継ぎ早に矢を放ちます。

 あー、なるほどコレは弓道とかじゃないですね。最悪相手が警戒すれば良いぐらいの雑な連射は正射必中を信条とする弓道ではあり得ない射撃です。

 ……まあ、全弾ホーミングして百発百中するんですけどね。ずるくないです?まほうのちからってすげー!

 頭を撃ち抜かれても動き続ける魔操種といえど、心臓を射抜かれれば生物としての機能の問題で動けなくなるようですね。

 まあ、血を媒介にする何かの魔物が操作しているようですし、血が巡らなくなれば動けなくなるというのは予想通りです。


 私も、目についた熊にそこそこの威力で吸魂の雷刃ストームブリンガーを放ちます。

 ぬあー、やっぱり吸収できる魔力が全然なくて収支マイナスで美味しくないです!

 と、魔物に仕込まれた魔力が全部抜けた熊が突然隣の魔操種熊に襲いかかりました。

 あれ?これ、なんか正気熊にとって魔操種熊って敵認定されてます?

 もーちょっと何体か正気に戻して確認してみましょうか。


 うーん、やっぱり正気熊が魔操種熊に襲いかかりますね。

 しかも、魔操種の方は正気熊を敵と認識してないのかされるがままになってますね。

 ……いや、でもこれ私以外に誰も活用できない知識ですよね。

 さしあたって、数が多い時に圧力を減らす役には立ちそうなので群れがわさっと襲ってきた時には吸魂の雷刃ストームブリンガーを撃ち込んでみるとしましょう。


 第一波で倒した熊は正気に戻した熊を含めて12匹。

 この現場で確認されたのって70体ちょっとでしたっけ?先は長いですね。

 おっと、そう言ってる間に第二波襲来ですよ。

 いや、これは逆にどんどん来てもらったほうが他の場所に援護に行けるんで良い事かもしれませんね。

 ほーら、群れの真ん中に吸魂の雷刃ストームブリンガーびりびりー!

 おおう、突進してくる群れの真ん中に撃ち込んだらその一団が急に立ち止まって、後ろの魔操種と戦闘を開始してめちゃめちゃなカオスが発生しています。

 で、その中を魔操種だけ素早く判別して的確に撃ち抜く理珠さん。

 やっぱ戦闘中のキリっとした顔の理珠さん綺麗ですよねぇ。

 

 安全に戦える戦法が確立してしまえば、後はミスをしないように気をつけるだけの作業の様な物です。

 私の魔力を消費するのがもったいないとのことで、理珠さんが周囲に魔力を放射して敵をおびき寄せ……後はさっきやった通りですね。


 うーん、やっぱこれ時間稼ぎですよねぇ。

 恐らく、今頃魔生対の方ではミラさんが何かしらの手段で暗躍して私の蘇生魔法(魔法じゃない)について探ってるんでしょうね。

 ザマさんは泳がせて、生贄ジェールトヴァの国内潜伏場所に案内してもらったりする考えだと思うんですが、個人的にはミラさんが苦しみそうな手段は避けたかったんですけどね。


 あの子、お姉さんのエラさんをなんとかして生き返らせるために必死で頑張ってるだけのいい子なんですよ。

 多分、魔生対で私の情報を抜き取るにしてもすごい罪悪感を感じながらやると思うんですよね。

 みんなが優しくして、棘が折れて暖かさを感じられるようになったばっかりに彼女が苦しむのはかなり嫌です。

 というか、もう気分的にミラさんは猫科の小動物で、私の妹分だと思ってますからね?

 

 気持ちばかり逸りますが、ここでの戦闘が終わっても私達は遊撃部隊として各地で戦闘している魔法少女達への援軍という仕事も残っているんですよね。

 この熊達が普通の魔物だったらもっと全力で戦って片付けられるのに……。

 ままならないものですね。


☆★☆★☆★☆


次の更新は4日だと言ったな?

アレは(結果的に)嘘だ。


はい、と言うことであけましておめでとうございます。

今年も何とかペースを維持して書き続けていこうと思いますのでよろしくお願いします。

年明けそうそう大きな地震が起こり、被害にあった方は大変でしょうが私に出来ることは作品の更新ぐらいなので・・・


ということで、熊の群れはあっさりと処理されました。

流石に一度見て対処法は共有されてますからね、楽なものです。

せめて「巨大化」ぐらいしないと相手にならないですね。


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