第11話 たった一つの無理なやり方
あれから一週間が経過しました。
魔物の出現は、私が感知しているだけで9回、特にやっかいな魔物は現れませんでした。
魔法少女の方々は、魔物と戦うと「私にご飯を奢れるというイベントが楽しめる」とか言うよくわからない理屈で非常にやる気に満ちていましたね。
正直、私の出番は無くても大丈夫そうでしたが、攻撃頻度を減らす程度のお手伝いはしておきました。
連絡手段は、まあ、多分携帯電話とかになるんでしょうけど、政府機関なのでいろんな許可が降りないと渡すことが出来ないそうです。まあ、なんとなく予想はしてましたが。
1回の食事支援とかなら経費で落とせるんでしょうけど、毎月の通信費がかかる携帯電話は色々処理が大変なのでしょう。
と、風に当たりながら夕暮れの街を眺めていた私の横に、ひょっこり黒い蛇が現れました。
「こんばんは、イツァナグイ。ようやく会えましたね」
「息災で何よりじゃな。まあ死んでおるが」
イツァナグイは前回と変わらず飄々とした様子で語りかけます。
「聞きたいことが山程あるので、今日はしっかり答えてもらいますからね?」
こら、意地の悪い表情で笑ってごまかさない!
「良い良い、気分が乗る限りにおいて答えてやるわい。お主の生活が面白いからの、見物料分ぐらいは答えてやろう」
ぬ、やっぱりどっかから見てるんですねこの蛇。まあ、現状私生活というものがほぼ存在しない状態なので見られても特に問題は無いのですが。
というか、夜が暇なんですよ!図書館は閉まってしまいますし、姿でバレるので立ち読み等していたら注目の的です。住所不定の無一文が夜にやれることってほとんど無いんですよね。
と、話がそれました。
「では答えてもらいましょう!……まず、そもそも魔力って何なんですか?昔は無かったですよねそんなの?」
「ふむ、良いところをつくのう。では語ってやろう。そもそも魔力とは何なのか……、ついでに魔法少女の成り立ちに関しても……」
そこからつらつらと、イツァナグイの長話が始まりました。いや、ほんと長かったんです。主にイツァナグイの心理描写が不要なのに長いんですよ!
えーっと?まとめると……。
魔力とは、そもそも元から地球上に存在していたモノだったようです。
ただし、それは不活性魔力と言って、外部からの働きかけに一切反応を返さない、質量もない、存在を知らないと検知不能のエネルギーで……。
そこに変化が生じたのが15年前。
自身をシアシャル・グラゼと呼称する精神生命体がこの星に降り立ったそうです。
目的は睡眠。
なんでも、不活性魔力に包まれた星は貴重で、そこで眠るととても気持ちがいいそうですよ。
外宇宙を漂っていたら、たまたまこの地球の座標が描かれたプレートを拾って、それを元にたどり着いたそうです。
……多分ボイジャーのアレですよね。まだ一応太陽系圏内に居るはずなのになんでそんな遠くでプレートを入手したのかは謎です。
で、その精神生命体シアシャル・グラゼはこの星の核に潜って眠りについたそうなんですが……。
そのシアシャル・グラゼ、活性化した魔力の塊で構成されているらしくて、で、活性化した魔力が不活性魔力に触れると、ソレを徐々に活性魔力に変質させていくそうです。
普通なら、星の魔力が活性魔力に変換されました。で終わるそうなんですが、今回は誤算があったようで。
人類の感情の振れ幅と、想像力が基準より遥かに高く、感情だけで、想像だけで魔力に影響を与えてしまうほどだったと。
そして、シアシャル・グラゼが眠りについて5年後に問題が表出します。
不活性魔力が活性魔力に変化する際に発生する「ゆらぎ」に感情が影響を与え、擬似的な精神生命体を作り出したそうです。
通常の、魔力から生まれた精神生命体であれば、星の活性魔力を取り込んで不活性魔力として吐き出す呼吸の様なサイクルで生存できるようなのですが……。
人間の感情から発生した生命体である以上、生命維持サイクルは人間に馴染みのある形態を取らざるを得なかったらしく……。
つまり、食事を摂る必要性が生まれたのです。
食事を摂るには、捕食対象となる生物に物理的に接触する必要があります。その必要性に迫られて、魔力の精神生命体は魔力で構成された実体を作り出しました。
それが最初の魔物。
肉体が魔力で構成されているので、魔力に干渉できない銃や爆撃はほぼ効果がありません。
魔物の出現を、状況把握の為に常駐させている外部精神端末であるイツァナグイから報告されたシアシャル・グラゼは大いに焦ったそうです。
気持ちよく眠りに来ただけなのに現地文明を壊滅させかねない危機を生み出してしまったと。
魔力が活性化する「ついで」で誕生してしまう魔物は、星の全魔力が活性化されるまで延々続いていくもので、その発生数と期間を計算したシアシャル・グラゼは自分での対処を早々に諦めてしまいました。
とりあえず、対処手段を与えておけばいい感じに現地人が問題を処理してくれるはずだと丸投げして。
……おいこらテメェと言いたくなる対応ですが、シアシャル・グラゼは地球上の人間全員が魔法少女だったとしても太刀打ちできない上位存在らしいのでどうしようもないようで……。
まあ、対処手段の構築を任されたイツァナグイもそこは割りと腹に据えかねているようで延々と愚痴を聞かされました。
そうして、イツァナグイが作り上げたのが、魔力を取り込める体質を持った女性(大体10万人に一人ぐらいの確率で存在するようです)に、魔力を出力する回路を勝手に転写して戦えるように即席の魔法使いを作り出すシステム。
ちなみに、なぜ女性限定かといえば、シアシャル・グラゼが性別的には女性に近い精神構造らしく、シアシャル・グラゼの魔法回路を流用するのに相性が良かったからだとか。若い子限定なのは、これから増加する魔物に対して長い間戦える人材を
という選択基準からのようです。
というわけで、若い女の子が戦場へ送られる非人道的(まあ、人間が作ってないので人道とか守ってくれないのはしょうがないんですが)システムが、対魔物のカウンターシステムとして仕事を始めて10年が経過したのが現在であると……。
「話はかなり長かったですし、というかイツァナグイ自身の心理描写とか大分不要な情報でかさ増しされてましたが、一応の流れは理解しました」
……この、中間管理職スネークも大分苦労してきたんだなぁという視線を向けると、イツァナグイも気持ちを察したのかため息を付きました。
手も肩も無いのに、肩をすくめているような雰囲気がわかるのがちょっとおもしろいです。
「ぶっちゃけ、あと何年ぐらい魔物の発生が続くんですか?さっきの説明だと、全魔力が活性魔力に変質してしまえば魔物の発生原因の「ゆらぎ」とやらは無くなってしまうと受け取れましたけれど?」
イツァナグイは少し考え込み
「このままのペースで変質していくなら30年前後、理論上の最短なら3年、かのぅ。理論上は、じゃがな」
と、答えました。期間を縮める手段があるならそれに越したことはないですし、どういう理屈で短縮できるのでしょうか?
「短縮方法を聞きたいという顔じゃな?まあ、そうじゃろうな。理論としては単純じゃ。絶対に実行はされんと思うがの」
「もったいぶらずにさっさと教えて頂けませんか?」
私の問いにイツァナグイは嘆息しつつ
「魔法少女は、危機が迫っている状態かつ、周囲に取り込める活性魔力が存在しない状態で魔力が枯渇すると不活性魔力を急速に活性魔力に変換して取り込む機構が備わっておる。そして、魔物は人間の一部、肉や髪や体液を食らう事で、その者の魔力も一緒に吸収することが出来る。ならば後は簡単じゃ。
『現在活動している、全ての魔法少女を生贄として魔物に差し出せば3年前後で不活性魔力は全て変質する』
最後に残った魔物ぐらいは、シアシャル・グラゼが処理するじゃろうて。単純じゃろ?そして、絶対に実行されぬであろ?」
そう答えました。
確かに、単純かつ、絶対に実行されない手段です。
……日本では、ですが。
今後30年戦い続けるよりは、生贄を差し出して期間を短縮したい。
そう考える国家はきっとあります。特に人権の軽いあの国とかあの国とかでは。
これは『そういう手段がある』という事実すら知られたくない案件ですね。絶対他人に話せない知識になりました。
しかし、魔物に拐われると本当にウ=ス異本展開が待っているとか、これは絶対に他の魔法少女の犠牲を出すわけに行かなくなりましたね。
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