妹のシチューは世界一!
「ただいま!」
家に帰り、俺は大きい声で叫んだ。
すると、奥の方からドタバタと大きい音が聞こえ、楓が顔を出した。
「おかえり!」
「相変わらず、楓は癒しだなぁ」
俺は楓を見て、今まで考えていた悩みや不安が全部吹っ飛んだような気がして、気が緩んだ。
多分、めちゃくちゃ気持ち悪い声になっていただろう。
「どうしたのお兄ちゃん?だいぶお疲れ?」
心配したような顔で俺が持っていた荷物を代わりに持ってくれた。
「ありがとう。実はそうなんだよ。ご飯食べる時に話したいから中に一旦入ってもいい?」
「あ、ごめんね。すぐに退くから」
そういうと、荷物を持って中に戻っていった。
靴を脱いでいる時、皿の音が聞こえることからきっと晩御飯の準備をしてくれているのだろう。
俺は靴を脱ぎ終わると、部屋に入っていった。
ドアを開けた瞬間、シチューのいい匂いが漂ってきた。
「今日は、シチューなのか。めちゃくちゃ美味しそうな匂いがする」
「ふふん、自信作だ!」
胸を張っていう楓に相変わらず可愛いなぁと頬が緩んでしまう。
「それなら、冷えないうちに食べたいから、さっさと着替えてくるね」
俺は自分の部屋に向かい、寝巻きに着替えるとリビングに戻った。
「お待たせ」
「遅い!」
「いうほど時間待たせてないだろ」
「えへへ、だってお兄ちゃんと話すのずっと待ってたもん」
「俺も同じだ」
リビングにはすでに楓が座っており、箸まできちんと準備が整っていた。
流石は楓だ。
俺はいつも通り楓の向かい側に座った。
「「じゃあ、いただきます!」」
楓はきちんと野菜から食べ始めるが、俺はシチューを最初に口に入れた。
かなり熱々だが、口の中にまろやかな風味に広がった。
「うん!めちゃくちゃうまい!」
「ほんとう!?このままお兄ちゃんより上手に料理作れるように頑張らなくちゃ!」
「いや、もう俺よりも上手だし美味しいよ!」
実際に俺はこんなに美味しいのを作れないし、もう俺とは比べられない域まで達しているだろう。
しかし、楓は頑なにそれを認めなかった。
「それなことないよ」
「そんなことあるよ」
「違って」
そんな感じで何回も押し問答が繰り返された。
そして、結局、両方最高に美味しいというとこで収まった。
「お兄ちゃん」
「どうかしたのか?」
楓は箸を置いて、口の中の食べ物をごっくんと飲み込むと俺に話しかけた。
「それで今日疲れてそうだったけど、何かあったの?」
「そうなんだよ。今日も色々あって大変だったな」
心配そうな顔をする楓に俺は相変わらず優しいなとシスコンなことを思っていた。
「坪久田さんっていう人がいるじゃん」
「坪久田商会の娘さんだったかな?その人がどうかしたの?」
流石に楓は坪久田さんのことを知っていたようだ。
まぁ有名な商会らしいし、同じ学校にも通っているから当たり前か。
俺も少しは同級生の名前を覚えるようにしないとダメだな。
「実は令嬢の栞が俺と話していることが気に食わなかったみたいで栞を校舎裏に呼び出して殴ろうとしてたんだよ」
「え?そんなことになってんの?」
楓はシチューを口に運ぼうとしていた手を止め、俺の方に驚いたような顔を向けた。
「そうなんだよ。しかも、栞を庇うために間に入っちゃって、坪久田さんに目をつけられたかもしれない。」
「あちゃー。それは大変だったね」
心配そうにしてくれてはいるが、その話を聞いて驚いている様子はない。
もしかしたら、俺が知らなかっただけでこういうことは日常茶飯事なのかもしれない。
俺が聴く側だったら、かなり普通との差におどいていたと思う。
もしかしたら、楓はこうなることを予想していたのかもしれないな。
「うん、しかも坪久田さんに敵対するみたいなことを言って、栞とは貴族と庶民の隔たりを無くすために頑張ろうと約束さちゃった。」
「ちょっと待ってどういうこと?」
しかし、そのことに対しては楓も予想していなかったみたいだ。
「坪久田さんがこれからもこんなことを栞に対して続けるっていうから、口論になって栞を俺が守るって言ってしまったんだよ」
「なるほどなるほど」
「そして、話の流れから貴族と庶民の隔たりをなくすために組織を作って本格的に活動していくことになった」
「……」
そういうと、楓はぴたりと動きが止まった。
そして、楓は俺の方を見て来た。
その顔は心配している顔なのか、率先してそういうことに関わった俺への怒りなのかわからないが、それが色々混じったような形容し難い顔になっていた。
「あ、もちろん後悔はしてないぞ」
それはその顔を見て、楓を不安にさせてしまったのかと思い、急いでそう言った。
「そ、そうなんだ。流石お兄ちゃんだね。」
「そんな大したことじゃないぞ」
実際に楓がいましていることに比べたら、俺は大したことがない。
俺は楓みたいに才能があるわけでもないし、簡単にお金を稼ぐようなこともできない。
そういう色々な面で俺は楓を評価しているし、尊敬しているし、兄として誇りに思っている。
「だって私にできまいもん」
しかし、楓はそういうと暗い顔になって俯いた。
俺が「そんなことないよ」と言おうとすると同時に楓は顔を上げた。
その顔はさっきまでの暗い顔ではなく、興味津々と言った顔だった。
「それって2人だけでやるの?」
「最初はそうなるだろうな」
実際、最初は2人でやるしかない。
きっと、茜は手伝ってくれないだろう。
どちらかと言えば、茜も坪久田さんと同じ考え方だ。
「俺たちの意見に賛同してくれる仲間が増えて来たら、その人に手伝ってまうけど、それでも最初はかなりきついだろうな」
きっと、社長令嬢である栞がいるから令嬢側も入りやすくはなるだろうが、それでもそんなにすぐうまくいくとは思っていない。
どちらにしろ長期戦になりそうだ。
生徒会長を決める選挙までは2ヶ月ちょいあるから、それまでにある程度の支持は集めたいところだ。
「うん、まぁ何かあったらいつでも相談してね」
「そうだな、いつでもそうするよ」
楓は優しい声と顔で俺にそう言った。
それに対し、俺は笑顔で返した。
「じゃあ、ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした」
2人仲良く食べ終わり、俺は楓と俺の皿を両方台所に運んだ。
「今日もすごくおいしかったよ、ありがとう」
「それならよかった、今から勉強するの?」
楓は台所の前に立って、スポンジに洗剤をつけながら、そうきいた。
最近はずっと楓に勉強を教えてもらっている。
しかし、今日は勉強よりやるべきことがあった。
「これからどうしていくべきか、対策を考えようと思って」
「坪久田さん?」
「そうだな。これからどうな嫌がらせを受けるかわからないし、どうすれば隔たりがなくなるのかも考えたいからな」
「わかった。頑張ってね」
「ありがとう」
楓のエールを受けた俺は夜遅くまで対策を考えるのだった。
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