栞と違和感
そんなことがあり、俺はまた学校へ登校していた。
意外と罪悪感は感じていない。
俺は昨日と同じように教室へ向かったが、昨日とは違って挨拶はしなかった。
昨日は挨拶をしただけで注目を浴びてしまったから、注目されるのが苦手な俺はやめとこうと思ったのだ。
やっぱり、教室に入った瞬間注目は集まったが、俺は気にしないように席に座った。
1人でぼーっと座っているのもなんだか嫌だな、勉強でもするか。
そう思い、勉強道具を取り出した瞬間、また周りがざわついた。
どうしたのかと周りを見渡したが、みんな俺の方を見ているようだ。
多分、俺が勉強道具取り出したからざわついたのか?
いちいち行動をひとつするだけで注目されたら居心地が悪いものである。
そういうわけで俺は昼休みになると、弁当を持って屋上に来ていた。
昨日みたいに弁当を食べるだけで騒がれていてはのんびり弁当を食べることもできない。
屋上なら、人が少ないから落ち着いて食べられるだろう。
屋上に来た理由はもう一つある。
それは俺は栞と友達になりたかったのだ。
時間が経ったら、また楓が学校に行くことになるだろう。その時に話せる人ができたら、今までより学校が楽しく感じれるかもしれない。
楓だって、優秀なだけの人だ。
きっと1人だったら寂しいだろう。
晴れてるおかげで気持ちいい風が吹いていた。
今日から弁当は宿題や予習で忙しくなった俺の代わりに楓が作ってくれるようになった。
弁当を開けてみるとタコさんウインナーとか花形の野菜とかいかにも女子力が高そうでかわいい弁当だ。
俺の弁当に比べると100倍こっちのほうがいいだろう。
味も相変わらず美味しい。
これはいい嫁になるな、嫁にはやるつもりはないが。
そんなことを考えていると、屋上のドアの方からガチャと開く音がした。
「よかった。今日も誰もいない。」
そう言って入ってきたのは栞だった。
俺はちょうどドアから死角に隠れているので栞は気づいていないようだった。
「はぁ、どうしよう。」
扉の近くに腰を下ろして弁当を開けながらそんなことを呟く栞。
「いつ行けばいいのかなぁ、いきたく無いな、でも悪い人ではなさそうだしなぁ」
俺は死角から耳をすましていた。
このまま盗み聞きのようなことをしたらいけないという気持ちもあったが、今出て行ったら気まずいという気持ちと気になるという気持ちが勝ってしまった。
まぁ、いいタイミングで出ていけばいいか。
でも、やっぱこう見ると体のラインとかいいし、髪をあげたりしたら顔とかはめっちゃ整ってそうだな。
「でも、やっぱ放課後に行くべきかな?それとも昼休み?いや、もしかしたらここで待ってたらまたくるかもしれないし、変に動いたらすれ違いになるかもだし…」
誰かを探しているようだが、誰を探してるんだろうか?
俺は学校に来始めたばっかだから、あんま名前とかは知らないけど、手伝えることがるかもしれないな。
それをきっかけに仲良くなれるかもしれないし。
そう思い、栞の後ろから脅かすつもりでゆっくりと近づいていった。
「栞さん!誰を探しているの?」
「どこにいるんだろ、楓さんって」
その二つの言葉は同時に重なった。
ん?
探してたのって俺のこと?
俺っていうか楓だけど…
そんなことはどうでもいいがなんでだ?
「な、なんでここにいるんですか?っていうか、全部盗み聞きして…」
「探してたのって私?」
「ていうか、なんで私の名前を知って!!」
そんなお互いの気持ちが混じり合った結果、お互い軽いパニックになり、会話が全く成り立たなかった。
「ちょ、ちょっとごめん、一旦落ち着こう!」
そんなこんなで俺は今、栞の横に座っている。
「ごめんね。全然盗み聞きする気はなくて」
盗み聞きするかは満々だったのだが、そんなことは言えるはずがない。
「い、いえ、私の方こそ、すみません。ちょ、ちょっとパニックになってしまって」
話すのが苦手なのか、栞さんはたじたじしながら話している。
「いいよいいよ、私も驚かせてしまったのが悪いし。それで私に用事ってどうかしたの?」
俺は言葉遣いに若干気をつけながら、話す。
でも、昨日から思っていたが意外とバレないように話せてるみたいだな。
まぁ、普段から楓とずっと話している俺からすれば当たり前だが。
「あ、あの、それは、昨日お姉ちゃんが楓さんに宿題を教えてもらったって、聞いたんですけど、お姉ちゃんはお礼とか、多分いってないので、私が、代わりにお礼を、しにいこうと思って。」
それに俺は違和感を覚えた。
どういうことだ?
お姉ちゃんの代わりにお礼をするって、お礼するのを忘れてたから代わりに言ってくれって言われたってことか?
っていうか、まずお姉ちゃんって誰だ?
あの時俺が教えた人は3人いたはずだ。
双子と聞いているから、雰囲気的には茜さんではなさそうだ。
あの堂々とした感じとは全然違いそうだ。
「ごめん、お姉ちゃんって?」
「?お、お姉ちゃんは、神楽茜って名前です」
ま、まじか!
ドンピシャで外してしまった。
っていうか、あのお嬢様のような人の妹ということか?
「え?そうなの?てことは栞さんも神楽っていう苗字なの?」
そういえば、昨日楓が栞さんは社長令嬢だと言っていた。
神楽っていう名字で社長令嬢!?
あの時はすごいなとしか思っていなかったが、神楽家だというと話は違う。
神楽家とはさまざまなブランド品を手がけるこの国でも有数の大企業だの社長だ。
「そ、そうです」
「てことは神楽ってあの神楽ってこと?」
俺は恐る恐る確認することにした。
「た、多分そうだと、思います」
や、やっぱりか。
ていうか、神楽という名字の時点で気づかなかった俺が馬鹿なのかもしれない。
「茜さんと栞さんが双子なんだね」
しかし、聞いてもあの堂々と偉そうな感じの茜さんとちょっとオドオドしている栞のイメージがイマイチ合わなかった。
「に、似てませんよね。私、あんなに堂々とできないし…」
「いやそういうつもりで言ったわけではないよ!それに栞さんには栞さんなりのいいところがあるんだから!例えば、お姉ちゃんの代わりにお礼しにきたりとかとても優しいんだなと思うよ」
俺はなんとか弁明しようとありきたりな言葉を並べた。
「い、いえ、お姉ちゃんのできないことをするのが妹ですから。」
ん?
姉ができないことをするのが妹?
さっきから、栞の言葉の節々に違和感を感じる。
ここで俺はある説が出た。
もしかしたら、栞は茜さんにこき使われているのではないか。
それなら、俺にお礼に来たのが栞だったのも納得だし、できないとさことをさせられたりしているのかもしれない。
しかし、それは確証がない。
「そんなことはないよ!双子だからってそういうことはできないよ」
今は否定することしかできない。
でも、いつか栞が悩んでいるなら、助けてあげれたらなと思った。
多分同じ双子だし、分かり合えることやアドバイスできることも多いだろう。
「あ、ありがとうございます」
「だけど、お礼とかは自分で言った方がいいと思うよ。」
「い、いえ、お姉ちゃんはできないので」
「できないってどういうこと?」
「あ、いえ、それは」
「ま、お姉ちゃん思いなのいいことだけど、甘えさせてばっかだったらだめだよ」
いくつか気になるところはあったが、助言だけをすることにした。
まだなんの確証もないのに急ぎすぎても失敗するだけだ。
しかし、これをきっかけに仲良くなれそうだな。
「う、うん」
「わかったなら、よし!じゃ、一緒に弁当食べようか!」
まずは栞の悩みを解決して友達になる前に仲良くなるとこからスタートだ!
「え?へ?な、なんでですか?」
「せっかくなんだし、一緒に食べようよ」
「い、いや」
「だって、2人とも弁当食べかけの状態だし、こっからまた別々ってのをおかしくない?それに栞さんと仲良くなりたいし!」
栞の悩みを解決して、楓に友達ができる!
これは完全な一石二鳥だ!
「わ、わかりました。」
「ありがとう!」
そうして、俺らは弁当を食べ始めた。
「その弁当かわいいね。自分で作ったの?」
「は、はいそうです。」
「すごいね!」
「か、楓さんこそその弁当は自分で作ったものじゃ、無いんですか?」
「違うよ、これは家族が作ってくれたんだ」
「お、お姉さんですか?」
「違うよ、妹だよ。すごくかわいいんだよ。」
「仲がいいんですね」
そんな感じで俺らは昼休みが終わるまで話し続けたのだった。
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