50 血の鏡
以上が、僕の話になります。そこから先は、世間の皆さんがよくご存知の通りですよ。僕は全ての罪を裁判で告白しました。記者さん、長い間、お疲れさまでした。
僕と兄、そして梓の話を書籍化したいと聞いたときは驚きましたよ。いや、もちろん嬉しかったんですけどね。こんな話、好んで読む人なんて居るのでしょうか。まあ、居るんでしょうね。趣味が悪いな、なんて他人事のように思います。
まあ、大衆はすぐに飽きて、古本屋に売りに行くでしょう。済みませんね、まだ出てもいないのにこんな話をして。
けれど、一般の流通に乗るということは、国会図書館に納められるということですよね。それは光栄なことです。
いつか、本を読んだいたいけな少年少女の心に大きな影響を与えるかもしれませんね。それは僕が死んでからなのかもしれません。それでもいいんです。想像すると、ぞくぞくします。
あの動画はどうなったんでしょうか。そうですか。何度もアップされていると。ルリちゃんもよくやりますね。さすが僕の親友です。海斗と結婚したと聞いたときは驚きました。子供ができたそうですね。その子が幸せに人生を送れるよう僕も祈っています。
両親の面会なら、全て断っています。今さら話すことなど何もありません。憔悴しているとは思いますよ。自分の息子、いや、息子たちがこんなことになって。父も会社の役員ではいられなくなったのではないでしょうか。まあ、そんなの知りませんけどね。
そうだ。兄を殺してから、鏡に兄の姿が映るようになったんです。どれだけカウンセリングを受けても、薬を変えてみても、消えそうにありません。
兄は血に濡れて、僕の顔を恨めしそうに覗き込んできます。ヒゲが薄い体質で良かったですよ。そんなにしょっちゅう鏡を見なくても済みますからね。
そんなわけで、僕は僕の顔というのをすっかり忘れてしまいました。写真で見せられても、自分だとわからないんです。
最後に? ええ、いいですよ。
ああ……そうですね。今でも僕は、兄のことを愛しています。この手にかけたことで、兄は永遠に僕のものになってくれました。ですので、後悔はしていません。
今の僕は、兄の言っていた通り、死んだらはい、終わりだと思っています。
黎姫先生の言葉を信じていた時期は確かにありました。けれどね、あのルリちゃんでさえ、もう彼女を見放したんですよ。
どうやら信者から金を絞り取れなくなってきて、躍起になっているみたいです。セミナーやらコンサルやらを実施してあがいているようなんですがね。
もう、そんなことはどうでもいいんです。梓が生まれてくるだなんて信じちゃいません。
僕は死んでも、天国にも地獄にも行かないでしょう。兄がどこかで待っているなんて思ってもいません。
人は死んだら死体になるだけなんです。実際に殺したのでよくわかります。魂なんてものは、自分を慰めるための都合のいい妄想です。
兄が、それを教えてくれました。
このくらいで、もういいですかね。最後まで聞いていただいて、ありがとうございました。
僕はこれからも、兄への愛に生きます。
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