23 暴露
梓さんからの告白を受けて二週間が経ちました。僕はその日も兄に呼ばれ、家に行きました。夜の八時くらいでした。
ダイニングテーブルにつくと、兄はこう言いました。
「さっきまでそこにメスガキが座ってたんだ」
「えっ……どういうことですか?」
「動画鑑賞させてやった。顔真っ赤にして出て行ったよ」
僕は思わず立ち上がりました。
「兄さん! なんで! どうしてですか!」
「だって、お前のこと信用してねぇもん。コソコソ付き合うつもりだったろ。だから現実を突きつけてやったの。もちろん戸籍も見せたぞ?」
涙がボロボロこぼれてきました。僕は椅子に座り、声をあげました。兄は僕の真横に立ち、ポンポンと頭を撫でてきました。
「そんなに泣くなって。瞬には兄さんが居るだろう? 女一人に白い目で見られたところでどうってことないさ」
破れかぶれになっていました。兄にキスをされて、僕は自分から舌を絡ませました。彼を追い詰め、呼吸ができないように。
「ちょっ……瞬、がっつきすぎ」
兄は爽やかな笑顔を浮かべました。梓さんに動画を公開したことで、スッキリしてしまったんでしょうね。
僕はその場で座ったまま、兄のベルトを外し始めました。もう何も考えたくありませんでした。
最後には寝室に行って、全てを済ませました。兄が寝た後、スマホを見ると、梓さんから連絡が来ていました。
『できるだけ早く、会って会いたい。連絡下さい』
時刻は夜の十一時でした。僕は悩みましたが、兄の家を抜け出して、梓さんのところへ向かうことにしました。
扉を開けてくれた梓さんは、目を真っ赤にしていました。
「瞬くん……」
「梓さん、ごめんなさい」
僕はソファに座りました。梓さんは温かい紅茶を淹れてくれました。
「ねえ、瞬くん。あなたのされていたことは、性的暴行だよ。訴えよう」
僕は首を横に振りました。こんなことが公になってはたまりません。それに、警察官などに事情を話すことになります。それが嫌でした。
そして何より、こんな土壇場になってまで、兄を犯罪者にしたくなかったのです。間違いなく彼は罪に問われるでしょう。そうなれば、離ればなれになります。
「いつからだったの?」
「夏休みくらいからです」
「じゃあ、もう半年以上だね。動画はまだあるの?」
「はい。全ての記録をとられていると思います」
梓さんは、きゅっと僕を抱き締めてきました。僕はたまらず打ち明けました。
「僕も、ずっと梓さんのことが好きだったんです。でも、兄さんのことがあるから。告白されて、嬉しかったけど、断れって脅されて……」
「わかった。うん。わかったよ。ありがとう、瞬くん。あなたもあたしを想ってくれてたんだね」
僕は梓さんの胸で泣きました。彼女は優しく背中をさすってくれました。ようやく落ち着いた僕は、兄への感情を吐露しました。
「憎いけど、好きなんです。普通の兄弟としてやっていきたいんです」
「そっか。そうなんだね。じゃあ、こうしよう。あたし、瞬くんの婚約者になるね。婚約者として、あなたのお兄さんと話がしたい」
婚約者という言葉に胸が震えました。あんな事実を知ってこそ、梓さんは僕を受け入れようとしてくれるのです。やはり彼女は聖母でした。
「あたしの婚約者になる?」
「はい、なります」
「じゃあ、敬語なしね。梓って呼んで、瞬」
「わかったよ、梓……」
「ふふっ、それでいいの」
もう一度、僕たちは抱き締め合いました。幸福なひとときでした。紅茶はすっかり冷めきっていました。それを飲んで、僕たちは兄の家に向かいました。
ベッドで寝ていた兄を揺り動かし、起こしました。彼は上半身を起こし、梓の姿があることに怪訝な表情を浮かべました。
「なんで居るの?」
「あたし、瞬の婚約者になりました。だからもう、瞬には手を出さないでくださ」
梓は兄を見下ろし、キッパリと言い切りました。兄は腹を抱えて笑い出しました。
「バカじゃねぇの? こいつと婚約? カトリックのお嬢さんが? 実の兄とやってた男だぞ?」
「それは瞬の意思じゃありません。無理矢理やらされていたんです。そうでしょう? 瞬」
「うん……」
兄は今度は僕に矛先を向けてきました。
「瞬、気持ち良かったんだよな? 身体がしっかり反応してたよな?」
「それは……」
「坂口さん。話を逸らさないで下さい。瞬はもう、あたしと婚約したんです」
ギロリと兄は梓を睨みました。しかし、梓も負けてはいません。二人の間に火花が散っているようでした。先に目を伏せたのは、兄でした。
「わかったよ、わかった。婚約したんだろ。もう瞬には手ぇ出さねぇよ」
安心しかけたその時でした。
「但し、条件がある。お前ら、ここで今すぐセックスしろ。もちろんカメラは回す。婚約者なんだろ? それくらい、できるよなぁ……?」
僕は梓の顔を見ました。歯を食い縛り、兄を蔑むかのように見下げていました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます