美少女になろう。KAWAIIは正義。KAWAIIこそ正義。

軽井 空気

第1話 異世界転性 その1

 空を見上げればどこまでも澄み渡った青い空に白い雲が流れ、昼なのにうっすらと赤い月が浮かんでいるのが見える。


「すううううぅぅぅぅぅ―――――、はあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~」


 深く吸い込んだ空気はとても美味かった。

 化学物質で汚染された現代日本のそれとは雲泥の差であった。

 もう空気が甘いと思えるくらいだった。

 深呼吸して少しスッキリした頭を下げて俺は足元の水面に目をおろした。

 これまた澄み渡る綺麗な水のおかげで水底の魚影をすかして見ることが出来る。それほどの湖であるが今は魚を見たいわけじゃない。

 少し角度を調節してやれば太陽の光を反射して鏡みたいになる。

 するとすっごい美少女の顔が写る。


 髪は空のように鮮やかな蒼色。長いそれを頭の高い位置でツインテールにしている。

 顔は丸っこくてほっぺが柔らかそうである。口は小さく鼻から顎先までの幅が短く幼い印象があるが、アーモンド形の目は釣りあがり気味で不機嫌さを感じさせる。瞳も澄んでいるもののその内側は深く冷たい。

 それも俺の感情が表に出ているからではない。

 口はしっかりと閉じられ短い眉毛も真っすぐしている。仏頂面なのは元々そういう顔だからだ。

 それでも可愛いのだ。

 いや、そう思うのはオレの趣味か。

 俺は目の前に手のひらを持って来て開いたり閉じたりする。その感覚はしっかりしていて、この体は確かに自分のものだと感じられる。

 改めて俺は自分がと自覚した。

 だから―――


 俺は自分の胸を鷲づかみにした。

「………硬い。………真っ平だ」

 いやいや、こういう自分が女に成った時はまず最初に自分の胸を触り、持ち上げ、はては揉みしだいてオッパイの感触を堪能して顔を赤らめるのがお約束だろう。だからやった。間違ってない。

 なのに中身が男だからって胸が雄パイなんてありえない。

 ならばなんでこんなに真っ平なのだろうか?

 決まっている。俺が原因だ。

 俺が貧乳教徒だからだ。

 だからこの体は貧乳に―――マッ・タイラーになったのだ。

「ふっ」

 俺は自嘲気味に笑うと―――


「ヒンヌー教徒で悪いかーーーーーーー!」


 湖に向かって思いっきり叫んだ。

「はぁ、はぁ、はぁ」

 喉を過ぎる声が心地よい刺激だった。

「良し、声は出るな」

 人間、大きな声を出したり声を出して笑うのはストレス発散になり、つまりカ・イ・カ・ン。

 それに俺の声はイメージ通りのハスキーボイスだった。

 これも俺の好みだ。

 そして身長も体を動かし、体操してみた感じだと150㎝弱の低身長である。

 うんうんと頷く。

 まさに俺の理想の美少女像通りだ。

 それもそうだろう。

 なんてたってこれは俺がデザインしたアバターなのだから。

 どういうことかというと―――


 【ファーストファンタジー・オンライン】。

 世界的人気のオンラインRPGがある。

 30年の歴史を持つ大人気ゲームはすでに10以上のナンバリングタイトルを出している不朽の名作である。

 そのシリーズの設定を元にネットゲームとしてMMORPG、つまり沢山の人が一緒にプレイするゲームがソレだった。

 このゲームの魅力は美麗なグラフィックで自分好みのキャラクター、アバターというものを作ってプレイできるところだ。

 その設定の選択肢は自由度が高くほぼ無限と言えるパターンがある。

 それで自分好みのキャラを作り育てていくのが楽しいのだ。


 で、そこで少し話は変わるがなろう系の異世界転生を知っているだろうか。

 女神転生じゃないぞ。異世界転生だ。

 まぁ分かりやすく言うとある日突然異世界に行くことになって冒険をするお話だ。

 昔なら主人公は元の世界に戻る方法を探して異世界を旅するのだが、最近では皆元の世界に帰ろうとせずに異世界での生活に馴染んでいくのが主流だ。

 それもこれも、主人公がヒキ・オタ・ニートだったりするので元の世界で生きづらく異世界で生きがいを見つけてしまうのだ。

 そして、現代社会ではこの異世界転生モノが流行っている。世の中の非リア充達はここではない異世界に希望を見出していて、誰もが憧れている。いやまぁ大きな声では言えないが、中にはS〇GAのゲームの為に帰って来るおじさんも居るけど。まぁそれは置いといて―――

 中でも自分の理想を形にしたキャラを最強になるまで育てた、そのキャラに転生するモノが人気だ。

 もちろんオレも大好きだ。餅のロン。餅でロン、大三元役満だ。

 まぁここまで言えばわかるだろう。

 この俺の体は自分で作ったキャラの体なのだ。

「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」

 俺はようやく憧れたゲームキャラに転生できたのだ。


「なのにネカマ用裏アカキャラかよ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」


 俺は渾身の力で湖に叫んだ。

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