第17話 ハーフエルフの女王フリーダ
翌朝、夜が明けるとすぐ、アルベルトやクローディア、そしてエルフのアランティアとともに、シエラは彼らの国に向かった。
乗り物は、駐屯所で飼われている馬くらいの大きさの鳥で、シエラにとっては初めて見る生き物だった。
「これは、魔物だけど安全な魔物っていうか……」
シエラが驚いて躊躇しているのを見て、クローディアが説明に苦慮した。
「魔物というのは瘴気が混ざって生まれるというのは聞いているだろう。こやつは混ざっている瘴気が少なく凶暴性が少ないから、ここで何とか飼いならすことができたのだ」
アランティアが説明を加えた。
「稀な事例なんですけどね。名前はフリュー。人懐こいやつですよ」
アルベルトが安心させるように言った。
「魔物になる前の元は人懐こい生き物だったからできた話だ。瘴気が混じったときに強化されたのが凶暴性じゃなく、人恋しさの感情だったのでうまくいった」
シエラはおそるおそるフリューと呼ばれた魔物の鳥の鼻先を撫でてみた。
フリューはうれしそうに眼を閉じてシエラがなでるのに任せた。
「三人は少々きついかもしれないけど頑張ってくれよ」
アルベルトがフリューに語りかけ、シエラを含む三名がフリューの背中に乗った。
エルフのアランティは空も飛べるのでそれに並走する
逢魔の森を上から見下ろすのはシエラにとって初めての経験だった。
目指す国は逢魔の森に馬蹄形に覆われており、上空からも見えるもっとも豪奢な建物に庭にフリューは降り立った。
ここが王宮かな、と、シエラにもなんとなくわかった。
そしてクローディアに連れていかれた大広間には、二十歳前後の髪も目も黄金色の女性が玉座に腰をかけていた。
「おかえりクローディア、伯父上もお久しぶりです。そしてその娘が……」
よく響くリズムの良い声で玉座の女性は声をかけた。
「はい、彼女がシエラでございます」
クローディアは答え、その後、
「フリーダ女王よ、ああ見えても齢五十は超えているわ」
そうシエラに耳打ちした。
「クローディアよ、そなたも女性のくせに女性の年など話題にするでない」
フリーダ女王はたしなめた。
「すいません、でも、女王はいつまでたっても年を取られませんから。初めて会ったときは私の方がまだ若く見えていたのに……」
「はは、たしかに初めて会った時には、そなたは十六の小娘じゃったの」
二人は笑い合い、それから女王はシエラに向かって言った。
「いきさつは一応聞いておる。この国ではそなたの髪色など小さな問題じゃ。安心して過ごすがよいぞ」
ありがとうございます、と、シエラが礼を述べると、再びクローディアが口を開いた。
「見てください、女王陛下。以前から話していたメエルの種がようやく手に入ったのですよ。うちの果樹園で栽培してみる予定ですから楽しみにしてくださいね」
「そなた、シエラを運び屋にしたらしいのう」
「それだけじゃないですよ。シエラの着ているドレス。私が生まれた国は織物の技術が高く、私も特産品の織り方くらい知識として知っていたけど、言葉だけじゃなかなか伝わりにくいものがありましてね。それで現物を王家に用意させ彼女に着用させてもらったんです」
それであんなに細かく衣装の注文を!
シエラはようやく合点がいた。
ちゃっかり故国の技術や農産物を手に入れたクローディアは嬉々として語った。
☆―☆―☆―☆-☆-☆
【作者メモ】
エルフを含む登場人物の年齢について出てきたので少しまとめておきます。
シエラ18歳、アンジュスト王太子とサリエも同い年
クローディア36歳、16歳の時に国外追放となり、フリーダ女王の国に保護される。
アルベルト20代前半
フリーダ女王50歳超
クローディアの夫は30代後半、アルベルトの父は40代半ば、どちらも女王の弟で、かつて王国を脅かした強力な魔物を退治したことで「英雄」と呼ばれている。
裏設定も含むとこんな感じですね。
それにしてもクローディアはどさくさに紛れて産業スパイやっちゃってたんですね。
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