おじさん、王子殿下に婚約破棄される

庭先 ひよこ

第0話 プロローグ

男は清掃道具を抱えて廊下を歩いていた。

すれ違う生徒達はこちらの姿など見えていないかのように通り過ぎていく。


(今日の担当は魔法薬学室か……)


長い廊下の突き当たりが目的地だ。この時間帯は誰もいないはず。そう思いながら扉を開く。

それと同時に爽やかな声が響いた。


「――来たか」


広い教室の真ん中に誰かが立っている。こちらに背を向けているため顔は判別できないが、今の声は彼が発したのだろう。


(ここの生徒さんか……?)


その人物はゆっくりと振り返る。窓から差し込む光が彼の姿を照らし出す。

鮮やかな金髪に空のような青い瞳。彼を構成する全てがキラキラと輝いて見える。

作り物のように整った顔に男は思わず見入った。


(わぁ、綺麗な子だなぁ……)


やがて、形の良い唇が開く。


「私は今ここに、お前との婚約破棄を宣言する!!」

「…………はい?」


彼の言うコンヤクハキとは婚約を破棄するという意味で合っているのだろうか。


……私と?


「私はただのおじさんですが……」


男にはそう答えることしかできなかった。

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