第226話 妄言

皐月『宏介最近すごく評判良いね?

成績優秀で特進、バスケもレギュラーで大活躍じゃない。

…頑張ったね…今なら私に釣り合うね?突き放した甲斐があったわ。

うん合格!また付き合ってあげる♪』


『…ちょっと何言ってるかわからない。』


ほんっとに頭おかしいの?

自分の仕出かし忘れたの?

無視するって決めたのに無視出来ない事を言いやがる。


愛莉先輩はオロオロ。

まあそうだよね。


『…愛莉先輩、良かったらそこの出口出て右行った公園のベンチに承たち居るはずです。

…先に行っててもらっても?』


愛莉先輩は頷くけど…行きかけて足を止める。

あんまり聞かせたく無いし、見られたく無いんだよな。


皐月は自信満々で、


皐月『宏介だって私を忘れたわけじゃ無いでしょ?

…あの日言い過ぎたかもって少しだけ後悔してるんだ…。』


…忘れられない…まあそれはね。

後悔?何を?


『…釣り合わないだ、うざかっただ好き放題言って一方的に別れたのお前の方からだろ。

…まだ形としては付き合ってたのに他の男と肉体関係まで持って。』


思い出すだけで吐き気がする…。

皐月はニコニコしながら、


皐月『だからー?あれはあの時はそうだったの!

今は違うね?宏介は格好良くなったし、勉強も頑張った!

合格!私の彼氏に相応しいよ♪

正輝とはもう別れたから問題無いっ!』



『…。』


別れたんか…山本…退学したって聞いたが…。

皐月と相対するだけでゴリゴリメンタルが削られる。

俺が返事する気力すら失いかけているこの状態で皐月は嬉々として語り続ける。


皐月『なんのかんの宏介とは中1から付き合ってたから?

やっぱり気心知れてるし♪色々あったけど元々の形に収まるのが良いと思うんだよね?

良かったね!私を取り戻したんだよ!』


まるで自分が攫われた姫でそれを勇者おれが取り戻しましたとさ!めでたしめでたし!って言わんばかり。


『…なんでそうなる?お前が一方的に捨てたんだろ?

何故俺が復縁を了承すると?』


皐月は目をぱちくりさせて…

…この仕草は中学生の頃の…まだ可愛かった頃のままでなんか辛くなった…。


皐月『え?

だってそうじゃないの?私に認められたいから勉強に部活に頑張ったんじゃないの?

あの後誰とも付き合わなかったの…私が忘れられなかったからじゃ無いの?』


うふふ♡蠱惑的に微笑む皐月に悪寒が止まらない…!

何故ここまで?コンプレックスがあることは、変身願望がある事は知っていた。

でも当時俺はそのままの皐月が好きで。

俺は完璧な美人なんて求めていない。

どっちかって言うと弱点、欠点がありそれを克服したり努力する娘が好き。

…以前皐月はそうだった…高校デビューで面影は無くなったけど、

昔は図書委員をしている少し地味だけどよく人を見ている大人しい綺麗な娘だったのに。

目の前に居るのは承認欲求に囚われた何でも自分に都合よく捉える怪物モンスターだと痛感する。


俺は大きく息を吸い込み、


『失せろぶす。』


皐月『なっ?!

私がブスなワケ?!』


一瞬で激昂する皐月!

容姿をどうこう言うのは好きじゃ無い。

でも皐月はルッキズムの狂信者だからそう言った方が効く…!


『…俺だって選ぶ権利がある。

俺はお前を絶対に選ばない。』


皐月『宏介!取り消しなさいよ!

何でそんなこと言うの?!

私と復縁したく無いの?!』


『絶対にしたく無いし、しない!』


険悪なムードも最高潮!

体育館のエントランスだったって事を思い出して俺は恥ずかしくなる…!

やっば!こんなところで!


愛莉『…三島皐月さん!

今はインターハイを賭けた大会の真っ最中。

…選手の迷惑です、今日はお引き取りくださいませんか?』


隙間に戻って来た愛莉先輩が割って入った。

荒事には慣れていないんだろうに少し震えていた。

俺を庇うように、俺と皐月の間に入って…。

慌てて俺は愛莉先輩の前に出て、


『…もういいだろ?

復縁なんかする気は無いから帰れ。』



皐月はフンって鼻を鳴らした皐月も周辺の視線を感じたのか、

愛莉先輩と俺に、


皐月『貴女ただの部活のマネージャーでしょ?

よく見かけるけど宏介のなんなの?


…まあいいわ。

宏介、私本気だからね?考えておいてね♪』


そう言って皐月は髪をかきあげると胸を張って堂々と歩いて行った…。


愛莉『怖かったよぅ…。』


『先輩!すいません!』


崩れ落ちる愛莉先輩を俺は慌てて助け起こす。


愛莉『なんか…迫力ある娘だね…。』


俺は乾いた笑いで肯定する。


『承たち待ってます。俺も早く先輩のお弁当食べたいです。

行きましょう。』


少しだけ先を歩いて俺は周囲に皐月が居ないか確認しながら待ち合わせベンチへ向かう。

…俺を癒せるのは承とお弁当だけ!


向こうから承が来るのが見えた…!



☆ ☆ ☆

先導する宏介を後ろから追いながら愛莉はぶつぶつ呟く。




『…ただの部活のマネージャー…。

…宏介くんの何なの?』



皐月の言葉を繰り返していた。

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