潮騒と太陽

あまたろう

本編

 もうすぐ太陽が沈む。辺りには波の音だけが響いている。

 海を見ると思い出すのは、幼なじみの紗奈のこと。

 島で育ち、全校生徒13人という小さな学校で一緒に過ごした。同学年は俺と紗奈の2人だけだった。

 小学生の頃は全くといっていいほど異性としては意識していなかった、と思う。ただの仲の良い同級生として常に一緒だった。

 中学校に上がると、なんとなく意識した。それは紗奈もそうだったのか、それまでほど常に一緒、というわけではなかったように思う。

 好きだった、んだと思う。ただ、それを口にすることでそれまでの関係が壊れてしまいそうな気がして、結局卒業まで言うことはできなかった。

 高校は島にはない。だから、船で通える近くの高校に上がるか、島を離れて寮生活をするかを選ぶことになった。そして紗奈は前者を、俺は後者を選んだ。

 島を離れる日、紗奈は俺を笑顔で見送ってくれた。だが、船が離れる時には紗奈は後ろを向いてしまっていた。今思えば、それなりに別れを惜しんでくれていたんだろう。

 夏休みには島に帰ろう。紗奈に会って、俺の気持ちを確かめよう。

 ……とまでは思わなかったが、とりあえず紗奈に会いたいという気持ちは本物だった。


 ――そして今、俺は浜辺で潮騒に包まれて――

 砂に埋まっている。


「何そんな姿でマジメな顔でボーッとしてんの」


 半ば呆れた顔でそう言ったのはその紗奈である。

 潮騒どころか、満潮が近い海は肩まで埋まった俺の間近にまでその波の音を響かせている。


「さっさと出ないと世界一恥ずかしい溺死体になっちゃうよ?」

「懐かしくて軽い気持ちで体を埋めてみたら、思いのほか潮が満ちてきて固まったみたいで自力で出られなくなった」

「……アホなの?」

「俺もそう思うから、助けてくれないか」

「まあ、もしかしたら満潮になっても鼻までは埋まらないかもよ?」

「口が埋まった時点でかなりピンチだろ」


 ケタケタと笑う紗奈。


「どうしよっかなー。じゃあ、そのままの姿勢で私の足でも舐めてくれる?」


 急な発案に、その姿を想像してとてつもなくエロい画になるのではないかと思ってしまった。ちょっと待ってくれ、いま体が埋まってる状態でそうなったら痛い痛い痛い。

 そんな俺の様子を察してか、紗奈の方も急に赤面してしまった。


「……ごめん、今のナシ。引っ張って助けるからアンタも出る努力をしなさいよ」

「……それはありがたいけど、ちょっと落ち着きたいから2~3分だけ待ってくれないか」

「なんでよ」

「理由は聞かないでくれ」


 太陽はすっかり沈み、波の音だけが辺りに響いていた。


(おわり)

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