私の名前がゴンザレスな故、結婚を破棄されてしまいました。〜なので、名付け親に復讐して、幸せな生活を築きたいと思います。〜

@kanae_kaki

アリネラ・ゴンザレス

「すまない……」


突然の婚約者であるセルロイド・ハーガの言葉に混乱するアリネラ。

静かな夜会終わりの会場に二人、小さな机に向かい合って座る。


未だにこの状況を掴めていないアリネラは、きょとんとした顔になってしまい、明日行われる結婚式前に、恥をかきそうになった。

セルロイドは、いつも以上に真剣な顔をしており、事の重大性がひしひしと感じられた。


「君の名前についてなんだ……」


ビクッっと、体を震わせるアリネラ。

そう、彼女には一つのコンプレックスが存在し、それについて触れられる状況になってしまった。


「あら・・・?名前・・・?なんのことかしら?」


しらばっくれる、アリネラに呆れた顔をするセルロイド。


「すまない、君の名前は、ゴンザレスなのだろう……ゴンザレスは、この世界で最も醜い名前の一つだ……たとえ、君がどんなに美しくても、その名前だけは……」


「……」


そう、彼女の名前は【アリネラ・ゴンザレス】。

貴族の娘として生まれ、なぜかこの名前になってしまった。

昔から、名前に関しては、姉などからいじられてきているが、婚約予定であったセルロイドに言われるのは、話が違う。


「婚約を……破棄させてもらう」


アリネラは何も言い返せなかった。


彼女自身も理解していた「自分の名前の醜さに」。

周りとは全く違う、その名前に。


セルロイドは立ち上がり、その場を去っていった。

途方に暮れた、アリネラはそっと立ち上がると、侍女がその部屋に入ってきた。


「アリネラ様…」


昔から侍女を務めているリーリア・ハーメール。

彼女もまた、名前についての辛さを理解していた。


長く侍女を務めていた故、名前についての問題は数多く扱ってきた。

その度に、アリネラが気づついているのを見るのが、リーリアにとって、苦痛でしかない。


今回もまた……。


「私がなんとかしてみせます」


リーリアの言葉には、熱意がこもっていた。

ーーーアリネラ様は、私の恩人。今度は、私が返す番です。


その思いには、彼女の過去が関係していた。


「いや、いいわ。私でなんとかする」


この時、アリネラは悲しみよりも先に、怒りの感情が湧き出てきた。

これまでにない程の、心の底から湧き出てくる怒りを、この場で爆発させないことに必死な程の怒り。


その矛先は…。


「この手で復讐してみせますわ!絶対に…私の名付け親を!」


【アリネラ・ゴンザレス】の名付け親の【アリネラ・サルバール】であった。

彼女の実の父親でもあり、この国【ハクア王国】の政府の幹部。


「私もお力添えになります」


二人の復讐劇が始まった。



ーーーーー次の日。

アリネラは自室のベッドで目を覚ました。

窓を開けると、部屋には朝日が差し、朝を迎えたことを知らせてくれる。


「アリネラ様、朝食でございます」


「そこに置いて頂戴」


「承知いたしました」


基本、自室で朝食を取ることにしているアリネラは、今日も同じく、風がよく通る窓の近くの席に座った。

ゆったりとした風が、頬にあたる。


「リーリア、本日の国王との会議、出席にしておくように」


「その予定は、キャンセルするのでは?」


「気分が変わったわ」


リーリエは近くにあったペンと紙で、手紙を書き、伝書鳩のような鳥に手紙を咥えさした。

すると、背中を2回ほどトントンと叩くと、鳥は空高く舞い、飛んで行った。


貴族である、アリネラ家は国王から認知されている程の立ち位置。

故に国王家に極めて近い区域に家が建っているため、鳥が手紙を届けるまで、5分とかからないことも。


黒く輝く長い髪の毛をまとめるアリネラ。

それを横で補助をし、外へ出る支度を進める。


ーーーすまない……。


昨夜の、セルロイドの言葉を思い出してしまうアリネラ。

涙が一粒、二粒と流れ落ちる。





私は何も悪くないのに……。





堪えていた感情が、再び溢れ出す。

【名前】だけで、人生が変わってしまうなんて……。


アリネラは、リーリエに優しく背中を撫でられるのであった。



ーーーセルロイド家。

それは、国王の側近として働く【セルロイド・フォード】を主軸とした一家のことである。

代々、王の側近として働いている彼らは、言わばエリートと言っても過言ではない。


そんな、セルロイド家では夜会の前日、とある話し合いの場が設けられた。


一家の次男であるセルロイド・ハーガは、明後日に婚約を果たす予定。

そんな、大事な時期に突然、父のフォードに、自室へ呼びだれた。


「失礼します」


父親に、部屋に呼び出されたことなど、一度もないハーガは、少し戸惑いながらも、父の顔色を伺った。

すると、気難しそうな顔をするフォードに、不安を煽られるハーガ。


ーーー私が何か、やらかしたのか……?


自分の行動を振り返る。

しかし、問題のある行動や発言はした覚えがなく、何を話されるかは、フォードが口を開くまで、分からなかった。


「すまない、こんな時間に呼び出して。座ってくれ」


広い部屋に、机とベッド、そして、向かい合って置かれたソファに腰をかける。

すると、フォードは向かい側の席に座り、本題へと入る。


「明日の夜会についてなんだ」


思ってもいなかった、発言に少し驚きを見せるも、冷静になるハーガ。


「彼女の名前を知っているか?」


「はい、アリネラ・ゴンザレスです」


「それが問題なのだよ……」


箱入りかつ、世間での噂を全く知らないハーガにとっては、名前なんて関係なかった。

単純にアリネラの性格に惹かれ、自身の結婚相手を選んだ。

この世界では珍しい、恋愛結婚での成立で、夜会では少し目立つと言われたが、ハーガのアリネラへの愛は大きく、それ以上のものだった。


「【ゴンザレス】はこの世で最も醜い名前なのだ」


その一言を聞き、ハーガは目を大きく開いた。


「そんなこと、なぜ前々から伝えてくれなかったのですか!」


「伝えようにも、伝えれなかったんだよ……」


小さく、机を叩き、悔しそうな顔をするフォード。

「使用人経由で、伝えてくれていたら」と思うと、苛立ちが止まらなくなるハーガ。

両者、感情が全面に出てしまっていた。


しかし、フォードはハーガにとって、一番の尊敬に値する人間。

誰もが憧れる、城の中で働いているフォードは昔から、輝かしく見えた。


それ故、フォードの言うことは絶対に聞いてきたハーガ。


今回もまた……


「婚約を破棄させます……明日の夜会終了時に……」


「すまない……」


深々と頭を下げるフォード。


「今回の件は、必ずどこかで返す」


「いえ、それは不要です」


「僕が彼女の名前を変えてみせます。そうして、もう一度婚約ができるように、お父様に認めていただけるように」


「………」


フォードは黙り込み、席を外した。

ハーガはその場で頭を抱え込み、アリネラのことで、頭がいっぱいだった。


あらすじ

「君……名前についてなんだ……」


静かな夜会終わりの会場に、一言の言葉がアリネラ・ゴンザレスに投げられた。

ーーーまた、こうして終わるのね。

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