第二話 階段落下
頭の痛みが治まったのでソフィアが顔を上げると、獣人の医者、メイド、それに騒ぎを聞きつけてきたのか、従兄弟のエリオットがいた。
金髪碧眼、見た目は美少年だが、心は悪魔。
ソフィアと同じ年で8歳。
エリオットは意地悪げな目でソフィアを見下ろし、
「バカが、溺れてやんの。あんな噴水で溺れるって」
と言って笑った。
浅い噴水でも水の中にで身体を押さえつけられたら溺れるだろ、とソフィアは思った。
しかし目の前の少年はソフィアの中身がすでに別人である事に気がついていない。
「エリオット様、ソフィア様はまだお加減が……」
と獣人が取りなしたのでエリオットはふんっと横を向いてから出て行った。
たたかれたり蹴られたり、切られたり、しょっちゅう怪我してた弱い自分を心配してよく診に来てくれてた医者だ、ということをソフィアは思い出した。
ソフィアは即座に起き上がった。
「ソフィア様、まだ横になって……」
「大丈夫、ちょっと、その、お手洗いに……」
「ああ、そうですか」
獣人が笑ったので、ソフィアは起き上がりスリッパを履いた。
部屋を出て追いかけるとエリオットが口笛を吹きながら歩いて行くのが見えた。
足に力を入れる、握り拳もぎゅっと握り込む。
ソフィアはにっと笑うとエリオットが階段を降りようとしたその瞬間、思いきり背中から蹴り落とした。
結果は見ずに即座に隠れる。
「うわああああ」というエリオットの声だけが後ろから聞こえてきた。
落ちて死んでもいいけど、少しは頑張ってくれないとね。
この悲鳴は序幕だから。
あんたがやられた方法できっちり仕返ししてやるから。
それがお願いだよね? とソフィアの中の美弥は思った。
ソフィアはいつも夕食は自室で食べていた。
自室とはいえ三階の屋根裏部屋のメイド部屋の横だ。
一応一人部屋だが北側の日の当たらない薄暗い場所だった。
メイド達は夜寝るだけだが、ソフィアはここから学園に行きここへ戻ってくる。
それ以外の場所は恐ろしくて自分ではとても行けなかった。
その日も夕食の時間に、メイドのリリイが部屋に来た。
いつもの夕食のトレーはなく、いよいよ飯抜きかよ、とソフィアは思ったが、
「ソフィア様、本日のお夕食は皆様とご一緒にどうぞ、という事ですが、大丈夫ですか?」
と言った。
「分かったわ。ありがとう」
このリリイというメイドは良い子で屋敷中が敵のソフィアの唯一の味方だ。
ソフィアに同情してくれる子だ。
いつもの貧相なドレスを着て、リリイについて階下へ降りる。
一階下りただけで、眩しい灯りにフカフカの絨毯。
色とりどりの高価な調度品。
ぱあっと世界が明るくなって、ソフィアの目がちかちかした。
「人間はクズばかりなのに綺麗なお屋敷」
と言うとリリイが不思議そうにソフィアを見た。
ソフィアが愚痴をこぼすのを聞くのは初めてだった。
「あら、おほほほ」
連れていかれたダイニングルームではソフィアをいじめる化け物どもがいた。
まず父親である、スミス・ヘンデル伯爵、メイドが産んだ子を認知する程度の常識はあるが正妻と子供がいじめをしてるのは気がついてない。
正妻のマーガレット伯爵夫人は狐顔だが美人で欲深く意地悪。
長男のマルクは名前の通り太く、背が低い。20歳。コンプレックスの為僻みっぽい。
長女のケイトは母親似で美人。成績も良く、学園の総会長。18歳。もちろん意地悪。
次女のナタリーは頭脳明晰だが器量は劣る15歳。やっぱり意地悪。
もう一人の従兄弟はローガン、エリオットの兄で細身のイケメン。15歳。当然クズ野郎。
「お待たせしました」
ソフィアが席に着くと、
「噴水で転んで頭を打ったんですって? 落ち着きのない子ね」
と早速夫人が言い、ソフィアを睨んだ。
クスクスと笑い声がする方の目をやると、ナタリーがいびつな顔で笑っていた。
「危ないわねぇ、気をつけてちょうだい」
ナタリーがソフィアを突き飛ばし、その後ろが噴水だった。
そこへ背中から落ち込んだソフィアの身体を押さえつけたのはヘリオットだった。
「はい、そうですね、気をつけます。そういえばエリオット様はどうしたのですか? 今日は夕食は召し上がらないのですか?」
とソフィアが聞くと、一瞬、間があって、
「今日は疲れからと、もう休みましたよ」
と夫人が言った。
ナタリーとローガンの目線が合い、ふと会話をした。
ソフィアは食事をしながら、ナイフを二本とフォークを失敬する事に成功した。
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