クズその21【お姉ちゃん】

 俺は昂る気持ちを抑える為、すーちゃんに視線を向けた。


 ……カワイイな。こんなにもカワイイ子が俺に寄りかかって眠ってる。葛谷遼時代ではありえない事だったんじゃないのか?


 そうだ……葛谷遼はもう死んだ。死んだんだ。


 俺は今、滝本移なんだ。仮……だけど。冷静になって考えれば、田中のスペックがどれだけ高くても、滝本移がま放つカワイさの前では骨抜きなんだ。つまり、カワイイは無敵、最強なんだ。絶対に……絶対にクエストを達成してチートなイケメン勇者に転生してやっからな!


 そう強く決意した俺は、ピッチャーごとビールを一気に飲み干し、テンションを急上昇させた。


「ぷはー! 美味しい!」

「おー、いい飲みっぷりだねぇ、チュリー」

「うん。ボク、今日はとことん飲むぞー!」


 再び盛り上がってきたその時、すーちゃんが目を覚ました。


「……ん。んん……」

「あ、起こしちゃった? 気持ち良く寝てたのにゴメンね、すーちゃん」

「……ふわぁ~。タッキーの側に居るとすっごく落ちつくんだぁ。つい、ウトウトしちゃった。テヘヘ」


 テヘヘてっ! カワイイ! くっそカワイイ! チワワか! 寝起きのすーちゃんが醸し出す仔犬のように無垢な笑顔が、俺の煩悩を激しく揺さぶる。


 ……そういやぁ、初恋の『あの子』もこんな雰囲気だったっけ。なんか、どことなく似てるかも。初恋の女の子とダブらせていたその時、すーちゃんのスマホが着信音を奏でた。


 すーちゃんは「あ、ゴメンね~。誰だろぉ?」と言いながらスマホを手に取り、画面を確認する。そこには女性の画像が表示されていた。


「あ~、お姉ちゃんだ」


 なるほど。すーちゃんのお姉ちゃんの写真か。妹同様、カワイイじゃないか……か? ん? なんかどこかで会ったことがあるような、無いような。


「お姉ちゃん? なぁに?」


 ロリ顔は、姉と暫く会話した後、通話を終えた。


「ゴメンねぇ。タッキーも知っての通り、ウチのお姉ちゃんシスコンだから」

「……う、うん。大丈夫だよ、気にしないで。あ……あのさ、すーちゃん」

「んん? なぁに?」

「すーちゃんのお姉ちゃんて何歳だっけ?」

「年齢? え~っとぉ……確か二十五歳だったかなぁ」

「……そ、そっか。あ、ボ……ボクちょっとトイレ」


 トイレへ移動した俺は直ぐ様、【愛妻優の姉に関するデータ】と、頭の中で指令を出し、視覚ウインドを開いた。


 ピロン♪


【愛妻なつみ:年齢二十五歳:身長一五二センチ:体重??:好きなスイーツ:苺のショートケーキ】


 う~ん、違うか? 初恋のあの子と名前は同じだし、年も一緒だけど、でもそもそも苗字が違うし。他人のそら似ってやつかも。 ははは……この程度の情報じゃわかんないな。とりあえず詳細データ、見てみるか。


 ピロン♪


【■愛妻なつみに関する詳細:高校二年の時、母親が再婚して現在の姓となる。旧姓は山本■妹の優と同じ大学に通い、卒業後は外資系に就職。現在キャリアウーマンとして活躍中】


 なっちゃんじゃん! いや、初恋の人じゃん!


「マ……ママママジか。すーちゃんがなっちゃんの妹だなんて。こんな……こんな超ド級の劇的奇跡が訪れるとは……仮転生って最高ぉおお!」

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