まだまだ営業途中!!
第29話 久しぶりの千彩都ちゃん
黒子が退院したその日、家に幼馴染の千彩都が訪れた。
小さい頃からの付き合いで、黒子のことはだいたい何でも知っている。
いろんな女の子たちがいるなか、いま現在もっとも黒子の好感度が高いのが、千彩都なのだ。
ちなみに、何度も一緒にお風呂を入った仲である。
「連絡つかなくなるし、入院してたって聞いたし、本当に心配したんだからね」
「あはは、ごめんごめん」
「しっかし、日輪兄妹とドットマジェスティの崩壊。それに、凶悪犯か……なーんか、凄いことが起きてるねぇ」
「ほんと、参っちゃうよ。ただみんなで、楽しくダンジョン攻略してほしいだけなのに」
「いつか凶悪犯とやらとも戦うかもね」
「うーん」
ため息をついた黒子と千彩都に、鎌瀬太郎がお茶をだした。
「安心してください師匠。今度こそ、成長した俺の実力で手助けするっす!!」
「あ、あはは、無理しないでね」
「この前は、本当に申し訳なかったっす……」
「そんなことないよ。鎌瀬くんが救助隊を呼んでくれたから、私はいまもこうしてピンピンしてるんだから」
「う、うぅ、なんという優しさ。感動っす〜」
太郎がわんわん泣いているのを横目に、千彩都はずずっとお茶を飲んだ。
久方ぶりの寂寥感。
自分だけ除け者にされている感じ。
「黒子、これからどうするの? デリバリー続けるの? それとも、凶悪犯捜しに専念、とか?」
「もちろん、デリバリーは辞めないよ。困っている人がいる限り、荷物を届けたいもん。犯人さんは……どのみち、私一人じゃどうしようもないよ。手がかりがあれば、接触してみるつもりだけど」
「危なくない?」
「危ないのが嫌なら、最初からダンジョンデリバリーなんてやらないよ〜」
それでこそ師匠っす。なんて太郎が称える。
親友の発言に、千彩都は若干引いてしまった。
これだから、ダンジョンに行くようなやつは頭のネジがぶっ飛んでいるのだ。
自分の命を軽く見すぎである。
下手をすればいつ死んでもおかしくない状況に、何の躊躇いもなく踏み込むなんて考えられない。
ましてや人殺しに会おうなど、理解の範疇を超えている。
とはいえ、このまま黒子がどんどん別の世界の住人になっていくのは、嫌だ。
可能な限り側にいてほしい。
黒子のことは何でも知っていたい。
「私も始めてみようかな、ダンジョン配信」
「ええ!? どうしたの急に!!」
「別に。なーんとなく」
「だ、ダメだよ。もっと安全になってからじゃないと!!」
「え、それ言ったら黒子だって危ないじゃん」
「私はいいの」
「なにそれ〜」
会話を遮るように、太郎が自分の胸を叩いた。
「俺に任せてくださいっす!!」
「はあ?」
「千彩都さんの代わりに、俺が一人前の配信者になるっす!!」
「あ、うん」
結局、この話題はここで終わってしまった。
忘れていた日常が戻ってくる。
いずれまた闇と相対するそのときまで。
夜。
家への帰路を進みながら、千彩都は呟いた。
「ダンジョン配信か……」
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