第23話 ドットマジェスティ その1 接触
松平駿河はコラボ配信などしない。
企業案件も受けないし、ネット友達だっていない。
なのでDMは閉鎖しているし、彼女と連絡を取り合うには基本的にメールしかない。
今日も駿河は一人でお昼ご飯を食べていた。
雨なので屋上は使えず、屋上へ上がる階段の踊り場で食べていた。
「ん」
スマホに一通のメールが届く。
知らないアドレス。しかもおそらく、使い捨て。
『私に会いたいか。姉の情報が欲しいか』
駿河の手から箸が落ちた。
謎のダンジョン犯罪集団ドットマジェスティと、正体不明のボスを連想する。
『会おう。友人の黒猫と共に来い』
罠か。
メンバーを何人か倒しているから、腹いせにリンチでもする気か。
そもそも何故呼び出す。
どちらかといえば敵である自分たちを。
ただのイタズラ?
このご時世、金を払えばメールアドレスなんて簡単に調べられる。
しかし、本当だとすれば、姉に近づくチャンス。
危険が伴う。だが、だがーー。
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「行きましょう!!」
放課後、駿河はどうしても結論が出せず黒子に相談していた。
弟子の太郎も、駿河に緑茶を出しながら告げる。
「2人ならどんな敵が来ても平気じゃないっすかあ?」
「どうでしょうね」
黒子がぐいっと身を乗り出す。
「私なら大丈夫です。お姉さんの大事な手がかり、必ずゲットしましょう!!」
「怪しすぎるし、責任、取れないわ。あなたにもしものことがあったら」
「だから私は平気ですって。せっかく向こうから誘ってきたんです。絶好のチャンスです!!」
「……助かるわ」
「いえいえ。親友ですから!! しっかりと、駿河さんをサポートします!! ダンジョンアイテムデリバリーとして!!」
今回は何も注文してはいないのだが、気合は充分に伝わった。
悩めるダンジョン冒険者をサポートするのが黒子なのだ。
いかなるダンジョンだろうと、苦しい状況だろうと関係ない。
本当に、頼りになる存在である。
「ふふ、ありがとう」
感謝しながら、罪悪感に蝕まれる。
黒子ならそう言ってくれると思っていた。
というか、初めから「大丈夫」だと答えてほしかったのだ。
1人で行くのは、さすがに恐ろしいから。
最初から素直に同行をお願いすればよかったのに、黒子の善意を利用して、責任から逃れようとしている自分が浅ましい。
黒子は無条件で危険に飛び込んでくれようとしているのに。
これのどこが友達なのか。
「俺も行くっす!!」
「「え」」
黒子と駿河がハモった。
「ドットマジェスティには借りがあるっすからねえ。それに、俺だって強くなったっす!! 冒険者ランクB!! 水魔法レベルもBっす!!」
それでも雑魚である。
足手まといだと説得するが、まったく聞く耳を持たず。
結局太郎も参加することになってしまった。
というか、
「そもそもあなた、なんで黒子の家にいるの!?」
「弟子なんで、家事のお手伝いしてるっす」
「いつも!?」
「ほぼ毎日っすね。弟子なんで」
黒子が苦笑する。
はじめはありがた迷惑であったが、いまでは家事のほとんどを任せっきりなので、いまさら文句も言えないのだ。
駿河はススっと太郎に近寄ると、
「黒子に手を出したら、……ろす」
と忠告したのだった。
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指定されたのは越谷市にあるトンネル型のダンジョン『ポベートール』。
すべてのダンジョンの中で、このポベートールは異質の存在とされていた。
モンスターがいないのだ。
罠もない。
なにもないただのトンネル。
なのに、攻略者のほとんどが謎の精神疾患を引き起こし、リタイアを余儀なくされる。
原因は、まったくの不明。
「これを持っていれば大丈夫です」
黒子が白い宝石のついたペンダントを2人に手渡した。
「なにこれ?」
「ディディクリスタル。このダンジョンで取れる魔力石です。私もこのダンジョンの謎はわからないんですけど、これを持ってたら平気だったので」
じゃあディディクリスタルを採取していない、最初の攻略のときはどうしていたのだろう。
疑問に感じた駿河であったが、たぶんアイテム生産スキルでどうにかしたのだろうと結論づけて、歩き出した。
「先頭は俺に任せてほしいっす!!」
一歩一歩踏みしめる。
いつドットマジェスティが出てくるかわかったものではない。
透明化のスキルなんてあれば、奇襲だって可能だ。
「駿河さん、配信しないんですか?」
「証拠も残るわけだし、したいのは山々。けど、逆に相手に警戒されるでしょう? 一応、私たちは情報を貰いに来ているわけだし」
「なるほろ……」
こんなとき探索スキルがあればと駿河は悔しがった。
高レベルの探索スキルなら、ダンジョンに入っただけで誰がどこにいるのか一瞬で把握できるのだ。
「もうすぐ地下に続くハシゴがありますよ」
黒子の予告通り穴とハシゴが見えてきた。
太郎に続いて駿河、黒子と降りていく。
地下1階。少し開けたエリアに足をつけると、
「誰かいるっす」
桃髪サイドテールのゴスロリ少女が、そこにいた。
「なーんか、知らないおっさんがいんじゃん。くふふ」
駿河が双剣を抜いた。
「あなた、ドットマジェスティ?」
「そーに決まってんでしょどー考えてもさー。知能指数2なの? くふふふ」
「ボス、じゃないでしょ」
だとすればあまりにも若すぎる。
中学生、いやギリギリ高校生か。
「お兄様ならこの奥にいるよ。でも〜、私が話をつけろって言われてるんだよねー」
「話って? 私は私の姉さん。松平小牧の情報がほしいだけよ」
「ただで教えるわけないじゃーん」
「なにが望みなの?」
「松平駿河、黒猫黒子。お兄様に忠誠を誓ってよ」
「は?」
「仲間になれっつってんの」
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※あとがき
ドットマジェスティ回が続きます。
黒子に訪れる、正真正銘の大ピンチ。
はたしてボスの正体とは?
てな感じです。
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