第21話 過去回② 駿河の過去っ!!

 駿河はその日もたまたま、ダンジョン内で黒子と遭遇した。

 もはや何度目だろうか。ダンジョンは数多くあれど、高確率で黒子に会ってしまう。

 偶然を通り越して運命なのかもしれない。


「大丈夫ですか?」


「えぇ、まあ」


 黒子の肩を借りながら外に出る。

 予想外に強いモンスターの群れに囲まれ、苦戦しちゃったのである。


「ポーションありますけど……」


「休めば平気よ」


「うーん。まあ、頼らなくていいなら、それに越したことはないですからね」


 ポーションやエーテルなどの回復アイテムは、人間の自己治癒力を刺激する。

 簡単に体力、魔力を回復し、傷まで塞がるわけだが、そのぶん、肉体には見えない負担が掛かっているのだ。

 過度に愛飲すれば、何らかの病気になる可能性が高まってしまう。


「じゃあ、私の家でゆっくりしてください。ここから近いので」


「え、いいの?」


「はい!!」


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 黒子の家は二度目。

 されど家でふたりっきりは……今回が初!!


 ソファでくつろぎながら、つまらないバラエティ番組を眺める。

 この胸の高鳴りを抑えなくては!!

 黒子はただの友達。ドキドキするような相手ではない。

 で、でないと、変な誤解をされて、距離を置かれてしまいかねない。


「駿河さん、緑茶です」


「ありがとう。水道水でもいいのに」


「あはは、駿河さんにただのお水なんて出せませんよー。そ・れ・に、私最近、お茶にハマってるんです。ぜひぜひ!!」


 実は黒子は最近までもっぱらのコーヒー党だった。

 鎌瀬太郎に淹れてもらったお茶を飲んでから、日本茶に目覚めたのである。


「あら、美味しい」


「ですよね!! 駿河さんは普段なにを飲んでいるんです?」


「そうね……レモンティーやミルクティー、かしら」


「おお!! お嬢様っぽいです!!」


「ふふ、なにそれ」


 黒子が目をキラキラと輝かせている。

 名前は猫なのに、実態は犬みたいだ。

 駿河の手が疼く。


 撫で回してめちゃくちゃにしたい。


 この感覚、覚えがある。


「姉さんに似てるわね」


「お姉さんですか? お姉さんも緑茶が好きなんですか?」


「そうじゃないわよ」


「んー?」



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 駿河と、姉の小牧は5つ離れていた。

 両親は医者志望の長男にのみ愛情を注いで、下の姉妹は松平家の子孫を増やすための『おまけ』程度にしか考えていなかった。


 故に、駿河と小牧は寂しさを埋め合うように寄り添い、愛し合った。


「するがぁ〜、宿題終わんないよ〜」


「もう、姉さんってば。よしよし、私が手伝うよ」


「やったーーっ!! さすが私の妹!! 天才!!」


「じゃあ姉さんも天才じゃないとおかしいよね?」


「あ〜、たしかに」


「ふふ、変なの」


 やがて、駿河が中学校に入学した頃、小牧はダンジョン配信をはじめた。

 運動だけは得意だった小牧は、あっという間にランクを上げ、配信者界隈でも有名になりつつあった。


「はい駿河、ホワイトコスモ、めっちゃレアな宝石だよ」


「あ、ありがとう。でも姉さん、これは受け取れないよ」


「なんで?」


「だって、私が嬉しがったら、姉さんはまたダンジョンに挑むでしょう? あんな危険な場所……」


「平気平気。だいたい私、ダンジョン配信で自立するつもりなんだから」


「家、出ていくの?」


「そしたら、一緒に暮らそうね」


「うーん」


「えぇ!? 嫌なのぉ!?」


「やっぱり、ダンジョン配信が理解できない。怖い視聴者に目をつけられるかもしれないじゃない」


 決して無くはない。

 実際、ダンジョン内で推しの配信者を襲う異常者がいたこともある。


「駿河、私のスキル忘れたの?」


「……不死スキル」


「そう!! だから何が起きても私は大丈夫!! てか、もう何回か死んだ目にあってるし」


「……」


 この世でただ一人、小牧のみが発動できる超レアスキル。

 どんな致命的を受けようが、毒を摂取しようが、決して死ぬことはなく、すぐに肉体が復活する。


 なにより特異なのは、『ダンジョン外』でもスキル効果が適用される点。


 神のスキルであった。


「へへへ、駿河、今日も一緒に寝ていい?」


「う、うん」


「やったあ!!」


 歳上なのに、まるで妹みたいに甘えてくる。

 世界で一番可愛い姉。


 一週間後、その最愛の姉が行方不明となる。

 手がかりは、まったくない。


 両親も兄も、ただの家出だと呆気なく見捨てる始末。

 小牧を捜しているのは、世界でただひとり、駿河だけなのだ。


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「駿河さーん」


 ハッと、駿河が目を覚ました。

 どうやら疲労のあまり眠っていたらしい。


「起こしてすみません。お風呂沸いたので、お先にどうぞ」


「え、えぇ。……黒子、悪いのだけど、今晩泊まってもいいかしら? 帰る気力すらないわ」


「大丈夫ですけど……お家の人、心配しません?」


「一報入れたら平気よ」


「そうなんですか!! あはは、お泊り会ですね」


「えぇ」


 姉のように、黒子と一緒に寝られたら……。

 なんて願望は、すぐに駿河の脳の片隅へ追いやられる。

 黒子はただの友達だから。


「なんか、あっという間に親友になっちゃいましたね」


「え!? 親友!?」


「違うんですか?」


「ち、違くない、かも」


 距離の詰め方が異常すぎる。

 本当にこのまま、ただの友達でいられるのだろうか。

 不安なような期待しちゃうような。


 結局、一緒のベッドで眠ることはなかったが、黒子の匂いが染み付いたジャージを着て寝たため、駿河は大満足したのだった。


 サイズはキツかったが。

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