第6話 希望への脱出
僕が、捕えられた車の中には、たくさんのゲージが積み重なれ、何頭かの犬や猫が、ひしめき合っていた。僕は、差し出された水を飲みながら、あたりを見回すと、ふと、不思議な共通点に気付いた。
「あれ?」
僕は、首を傾げた。みんな汚れ痩せ細ってはいるが、不思議な事に、MIXの犬は、いなかった。みんなどこかのブリーダーから連れてこられた様な犬や猫達ばかりだった。
「不思議でしょう?」
僕の視線に気が付いたのか、隣のゲージにいる豆柴が答えてくれた。
「私の友達は、ここに入れてもらえなかったの」
「え?」
「もう、何日も食べ物がもらえなくて、困っていたの。食べ物を差し出されて、捕まってしまったけど、先に捕まった私の友人は、食べ物をもらっただけで、この車には、乗せてもらわなかったの」
「置いてこられたの?」
「そう」
僕は、用心深く、人間達の行動を見ていた。確かに、雑種の子達は、車に乗せていない。他の車とすれ違った。保護にきた車だったけど、すれ違い様に、覗いた窓の中には、たくさんのMIXの仲間達がいた。
「MIXの子も可愛いのに」
豆柴は、不満げに呟く。
「もしかしたら、逃げ出した方がいいかも」
僕は、みんなに目配せした。空腹のあまり、捕まった僕達だけど、どうも、この人間達は、怪しすぎる。火事場泥棒のように、純血統の僕らだけ集めて、どこかで、他の人に渡すつもりだ。
「譲渡会と称して、お金を取る奴らがいるらしいぜ」
向かい側のゲージのチワワの子が言う。
「飼い主さんに会いたい」
豆柴が呟く。僕の飼い主さん達は、どこにいってしまったのだろう。僕の兄弟達は、無事なのだろうか。ボスは?僕は、このまま、ここにいては、いけないと思った。隙を見て、ここから逃げ出し、大好きな人達に会うんだ。僕は、人間が、このゲージを開けさせようと思った。
車は、すっかり人通りの少なくなった大通りを抜け、山道に入った。僕らをどこに連れていくのか、クネクネと曲がった山道を抜けて、太陽が沈みかけた頃、ようやく、人気のある街にたどり着いた。そろそろ休憩するのか、車は、コンビニの駐車場へと入っていった。飼い主さん達や母と出かける時に、よく、休憩に立ち寄っていた。母は、
「飼い主さん達は、ここで、水分を摂ったり、排泄に行くのよ」
と言うのを、不思議な思いで聴いていた。きっと、ここで、この車の人達は、休憩するに違いない。僕は、ゲージの中で、腹を出して寝そべった。前足や、後ろ足を天井に向け、口から泡を出し、前足や後ろ足を痙攣させる。
「おい!見ろ!」
後部を除いた運転手達が、僕の姿を見て、顔色を変えた。トランクを開け、ゲージの扉に手を掛ける。
「今だ!」
僕は、運転手達が、扉を開けた瞬間、外の世界へと飛び出していた。
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