極上のモフモフ愛をどうぞ

蘇 陶華

第1話 運命のあの日

僕は、まだ、何もわからなかった。史上最悪のあの日、僕は、山間の農家の納屋で、いつもの様に、母親や兄妹と一緒に、初めて見る山間の景色を楽しんでいた。一緒の家族は、大勢で、僕らの飼い主夫婦と大きなじいちゃん、ばあちゃんが居て、僕らを可愛がるお兄ちゃん、お姉ちゃん、小さなお兄ちゃんがいた。兄弟達も多くて、僕は、毎日が楽しかったと思う。ていうか、あまり思い出したくない。あまりにも、辛すぎて。僕の生まれた家は、山間の農家だった。たくさんの鶏を放し飼いにしていて、朝早くから、飼い主さん達は、鳥達の世話に忙しく働いていた。他には、畑をやっていて、季節毎の行事に追われていると母が言っていた。母も僕らも可愛がってもらっていて、山間という事もあって、僕らは、自由に何に縛れる事もなく、走り回っていた。そのお陰で、僕らは、助かることになる。あの日。大きな地震がやってきた。

「まり!逃げろ」

飼い主さん達は、走りながら外に飛び出してきた。恐ろしい音を山が立てていた。僕らと母は、家から飛び出した。まだ、寒い、外の気配に、僕は、何が起きたのか、わからなかった。ものすごい音がして、家の裏が崩れてきた。僕は、母と一緒に、家の庭木に身を寄せていた。長い揺れに、僕らは生きた心地がしなかった。母は、何かを察知するかの様に、空気を読み取り、不安な顔をしていた。

「大丈夫だ。大丈夫。」

一緒に逃げてきた飼い主の母ちゃんが、呪文のように唱えていた。大丈夫な様子でなんかない。僕は、母のお腹に潜り込んだ。兄妹たちも、何か、恐ろしい事が起きたと思った。山々の空気が変わっていったんだ。

 揺れが収まると、飼い主の父ちゃんが、軽トラを出してきて言った。

「近所を見てくる」

父ちゃんは、街の消防団だ。母ちゃんは、うなづくと、

「私は、子供らを迎えに言ってくる。」

そ言うと僕らの母に、

「外で、待ってな」

そう言うと、じいちゃんとばあちゃんを車に乗せて出ていった。裏の山が崩れたので、念の為、避難所に、預けにいったらしい。僕らを連れて行く事はできないし、すぐ戻るつもりだったんだと思う。僕らが、会う事はそれが最後となったんだ。どんなに待っても、僕らの元に、飼い主さん達が帰ってくる事はなかった。

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