第17話 かいぼりの決闘


 宇多方について語ろう。


 桃乃華市の城跡公園にある池で、が行われた。かいぼりとは、池のポンプを使って池の水を抜き、池の底を天日干しにすることである。目的は水質の改善だ。


 数十トンの水が排水され、池の底が見えてきた頃、異変が起こった。それまでは快晴だったのに、突然、濃霧が発生して、その中から、巨大な影が二つあらわれたのだ。


 二つの影は「怪物」と呼ぶのにふさわしく、後に「クラーケン」と「クジラ人間」と命名された。


 クラーケンとは伝説の巨大イカのことであり、ダイオウイカがモデルと言われている。出現したクラーケンは、全長が十メートルあった。普通のイカとは構造が異なり、強靭な骨格と筋肉をもっているらしく、直立歩行をしていた。


 クジラ人間の方は、マッコウクジラの頭部と人間の身体をもっていた。クラーケンより身長が少し低いが、筋肉隆々の身体は分厚く、まるで巨大なボディビルダーのように見えた。


 ダイオウイカとマッコウクジラは宿敵同士と言われているが、二体の怪物も例外ではなかったらしい。


 クラーケンが触腕を鞭のように使って、宿敵の胴体を締め付ける。吸盤が酸でも吐き出したのか、クジラ人間の肌から白煙が上がる。しかし、苦痛を感じた気配はない。クジラ人間はクラーケンに接近して、拳を固めて、殴打を繰り返す。


 目撃者は自治体職員と作業員、野次馬を含めて、十五人に及んだ。彼らは目の前の光景に凍りついていたが、すぐに妙なことに気付く。


 本来ならば大音響や地響きがおこるはずなのに、まったくの無音で無振動なのだ。水しぶき一つ飛んでこない。まるで、サイレントの怪獣映画のようだった。


 出現と同様に、怪物たちは消失も突然だった。濃霧が晴れるとともに、怪物の姿はえ、元通りの情景に戻った。自治体職員が調べたのだが、足跡などの痕跡は一つも残されていなかったという。


 二体の怪物は、どこからやってきたのか?

 専門家は、かいぼりの作業中に「別界の門」が一時的に開いたのだろう、と述べている。


 もっとも、宇多方の人々は日頃から異常事態に慣れている。怪物が二体も出現したのに、まぁ、そうこともあるだろう、と受け入れていたらしい。





 



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