第11話 カーテン


 宇多方について語ろう。


 奈楽市の北部に竜晄山りゅうこうざんという霊峰があり、その麓に古びた日本家屋が建っている。かつては三世帯が暮らしていたらしいが、今は誰も住んでおらず、家屋も庭も荒れ放題である。


 G物件だという噂もある。Gとはゴースト。つまり「幽霊が出る」というわけだ。


 ずっと気になっていることがある。二階の窓に、ライトグレーのカーテンがかかっているのだ。元は純白だったが、長い年月を経て、くすんだグレーになったのかもしれない。


 気になるのは、そのカーテンが時折、赤く染まることだ。真っ昼間だったので、西日が反射しているわけではない。明るい赤ではなく、深紅に近かった。黒味を帯びた不気味な色である。


 ある時、奇妙な符合に気付いた。問題の日本家屋の周辺では、ひんぱんに神隠しが起こるのだ。新聞記事を調べてみると、年に数回のペースで、年齢性別に関係なく人間が消えている。もしかしたら、日本家屋に誘いこまれ、喰われているのではないだろうか?


 もちろん、何の証拠も裏付けもない。僕の勝手な思いつきである。妄想だと言われても仕方がない。だが、それでも、「人喰い屋敷」なのではないかと考えてしまう。


 なぜなら、カーテンが赤く染まる日に、日本家屋を見ると、ひどく満ち足りているような印象を受けるのだ。まるで、御馳走をたらふく食べた中年男性が、ベルトをゆるめてお腹をなでているように。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る